2021春(vol.38) 〜ヒレアシ語を話せる素質〜
※この記事はイベント会場である ”東京カルチャーカルチャー” のWebサイトに掲載されていた
公式ライブレポートを一部修正の上、転載したものになります。
2021年1発目の超水族館ナイトはファン待望の ”ヒレアシ回” でした。
トークテーマは ”ヒレアシ語を話せる素質” 。
実に 2014年の夏開催(vol.18=人生は海獣から学んだ)以来のヒレアシトークだったでしょうか? 最大のサプライズは何と言っても、後半・第2部のゲスト! 中村さんも大絶賛する ”柵なし展示” を世界で初めて開発した 伊勢夫婦岩ふれあい水族館シーパラダイス(伊勢シーパラダイス) から カリスマ海獣トレーナー・田村龍太 館長 が来てくれました! 2020年6月に館長に就任し、12月に就任式を行ったばかりのホヤホヤの ”新” 館長 ですが、このような都会のイベントに出てくることは滅多にないそうで、この貴重な機会を逃すまいと、コロナ禍にありながら万難を排して多くの水族館ファン、海獣ファン、伊勢シーパラダイスファン、そして田村館長ファンがカルカルに集まりました(もちろん配信を視聴者されいた方も多数!)。加えて、自他共に認める「シャイな性格」という田村館長のサポート役として、(入社した水族館は違うけれど)同期の友人で、こちらも実力派トレーナーとして名を馳せる 芦刈治将さん(サインシャイン水族館)も登壇! 田村さんの館長就任を温かく祝いつつ、伊勢シーパラダイスの展示の魅力、ヒレアシの魅力、トレーナーの魅力をギュッと詰め込んだ濃厚なトークが展開されました。芦刈さん曰く「渋谷で田村館長に会えるなんて奇跡ですからね!」。では、その ”奇跡” の一夜を振り返っていきましょう。
出演者紹介
◆ 中村元(水族館プロデューサー)
大学卒業後、鳥羽水族館に入社。アシカトレーナー、企画室長を経て、新しい鳥羽水族館をプロデュースし、副館長を務めた。2002年に水族館プロデューサーとして独立。新江ノ島水族館、サンシャイン水族館、北の大地の水族館、マリホ水族館…等々、数々の展示プロデュースを手掛け、いずれも大成功に導いた ”集客請負人”。顧客目線のマーケティング戦略に長け 「弱点を武器に変える」独自の発想法で水族館界にムーブメントを起こし続けている。2008年より、ここ東京カルチャーカルチャーにて『超水族館ナイト』を主宰。毎回満員御礼の人気レギュラーイベントとなっている。
水族館ファン必携の書『中村元の全国水族館ガイド』シリーズをはじめ著書も多数。なお今回のトークテーマ『ヒレアシ語を話せる素質』は、中村さんが水族館での飼育経験や海外のフィールド調査で体験した野生動物との出会いから得たエピソードなどを写真付きで紹介した書籍 『アシカ語を話せる素質(海游舎 / 1995.12)』 から採ったものでした。
◆テリー植田~司会進行(東京カルチャーカルチャー・プロデューサー)
2008年に水族館カルチャーをテーマにしたトークイベントの開催を提案。中村さんと共に『超水族館ナイト』をスタートさせた。中村さんとの絶妙な掛け合いが好評で ”永遠の水族館素人” の立場からトークを盛り上げる。 奈良県桜井市の出身で実家は三輪そうめんの製麺所。夏場を中心に そうめん研究家・ソーメン二郎 としても活躍中。
毎回満員御礼の人気イベントですが、上の写真を見ての通り、前回(2020年・秋開催)に続きソーシャルディスタンス確保のため収容人数を半分以下に減らしての開催でした。飲食提供が見送られたので人気のイベント特別メニューもなし。毎回大盛り上がりの2次会(公開打ち上げ)もなしという状況…。
中村さん
「色々と制限があって残念やけど、コロナも生き物やからね。コロナは人殺すからアカンとか言うけど、地球上の他の生き物たちからすれば『人間こそ色んな生き物を殺して食いまくるからアカン』と言うに決まっとる。もちろんコロナは憎いよ? でも自然の一部としてある程度は納得しなきゃいけない部分もあるんやろなぁと思ってね。」
テリーP
「なるほど。たしかにそうかもしれないですね。」
中村さん
「皆さんのおかげで、こんな時期でも超水族館ナイトが行える。本当にありがたいと思ってます。」
一人一人が感染予防を徹底し、1日も早く ”全部盛り” の超水族館ナイトを取り戻せるように頑張っていきましょう。
第1部より
1.ヒレアシ語、はじめの一歩
「出演者紹介」のところでも書きましたが、中村さんは アシカトレーナー からキャリアスタートさせています。大学を卒業して、鳥羽水族館には経営企画・広報系のスタッフとしての入社でしたが、それらの業務をこなすには ”現場” を知る必要があり、最初の3年間は 飼育係 を務めたそうです。
中村さんが入社した当時の鳥羽水族館の飼育部門は、ジュゴン・イルカ・アシカの3つの海獣担当チームに分かれていて、それぞれに館内の水槽展示の飼育業務も割り振られていました。例えば、ジュゴン班には「サンゴ礁の魚」が、イルカ班には「日本の海」が、アシカ班には 「カエルとペンギン」 が…といった具合に…。「魚の名前なんて全く知らないし全く覚えられなかった」という中村さんは迷わずアシカ班を希望。
中村さん
「魚はよう知らんけどカエルならオレだって知っとる! 家の周りにいっぱいいた。ペンギンもまかしとき! 中学生の頃、手乗り文鳥を飼っていた! 同じ鳥類やん? しかも、ウチはニワトリをヒヨコから育ていて自分で絞めて食っとったからね!(ドヤ顔)」
テリー
「あっ、そうか。以前(※)そんな話していましたね!」
※超水族館ナイト2012秋 ~命と水族館…いただきますの気持ち~(vol.12)
中村さん
「そしてアシカは顔が犬に似ていると思わん? アシカショーなんて見ていたら完璧に犬みたいやん? ウチは犬が大好きでずっと飼っていました。カエルを知っていて鳥と犬に堪能なオレこそがアシカ班に相応しい! そう思いました。」
面談で希望を伝え、晴れてアシカ班への配属が決定!
テリーP
「…で、イメージ通りに行ったんですか?」
中村さん
「いやいや、アシカね、アイツら犬と全然ちゃうわ!(苦笑)」
客席:(笑)
中村さん
「アシカ班に配属されて嬉しくて意気揚々と飼育場に行きました。そうしたら柵の横から(カルフォルニアアシカの)顔がビュッと出てきていきなりガッ!と足を噛まれたからね。ええっ~!?となりました。」
ちなみにカルフォルニアアシカの噛み方は歯を打ちつけるよう ”打撃系” だそうで、噛まれた箇所がボコッと穴になって周囲が黒アザになるらしい(痛そう)。当時はまだ 「トレーナー」 という言葉は浸透しておらず 「調教師」 と呼ばれていた時代で、主たるトレーニング方法は ”飴と鞭” の世界でした。
中村さん
「だからアシカ班の先輩達には『噛まれたらナメられないようにすぐにやり返せ』と教えられていました。やり返そうにもはアイツらは噛んだ次の瞬間にはビュッといなくなりやがるのよ!(苦笑) 経験的にトレーナーを噛んだら殴られることも分かっているからすぐ水の中に逃げやがる。」
テリー
「ボクシングでいうヒット・アンド・アウェイだ(笑)」
中村さん
「噛まれてからやり返そうと思っても間に合わないから、もう噛まれたその手で張り手を返すようにしたのね。それを繰り返していたら1週間も経たずに噛まなくなりました。」
中村さんの話を聞いて、「アシカに張り手なんて酷い!」と思った人がいるかしれませんが、確かに当時は ”飴と鞭による調教” の時代だったので ”やり返す” という発想自体は多少野蛮な一面はあったものの、それは人間基準の感覚であって、アシカにとっては自然界でごくごく日常的に行われているコミュニケーションの一つでもありました。これまでに何度もフィールド調査に出て、野生のアシカの群れを間近に観察してきた中村さんが自らの体験を踏まえて次のように説明してくれました。
中村さん
「野生のアシカは仲間同士でしょっちゅう噛み合ったりしているのね。オレの張り手なんて比べ物にならないぐらいもの凄い勢いと強さでガンガンやり合っている。彼らは皮下脂肪が分厚いから本気で噛み合っても全然平気なんです。アシカはどんな時に噛むかというと、じゃれ合いだったり、自分のテリトリーを侵されてアッチ行けと訴える時だったり、もしかしたら単に退屈でとりあえず近くの相手に『暇じゃ~(ガブッ)』とやっていたのかも分からん(笑)。実際のフィールドではそこかしこで本気の噛み合いが行われているんです。」
アシカの世界では噛むことで相手に主張・メッセージを伝えている。
そう考えると中村さんがアシカに噛まれたこと、それに対して中村さんが「やめて!噛まないで!」と張り手を返したこと、それに応じてアシカが噛まなくなったことは、中村さんとアシカの間で一連のコミュケーションが立派に成立していたと言えます。
中村さん
「だからアシカが噛まなくなった時、オレはアシカ語が話せる最初の一歩を踏み出したんだなぁと思ったのね。」
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