2021夏(vol.39) 〜水族館の明日はどっちだ!〜
◆キーワードは『コミュニティーマーケット』
水族館がコロナ禍を経て、将来より発展していくためには、先ほど紹介したような新しい取り組みも大事ですが、同時に、
中村さん
「それぞれの水族館が『なぜ人が来てくれているのか』、 ”選ばれている理由” をキチンと分析し理解できていることが重要です。』
中村さんは コミュニティーマーケット という言葉でそれを説明しています。
例えば、家族や友達同士でどこかへ出かけることになりました。最初は各々希望の行き先はバラバラでしたが、みんなで話し合った結果、最終的には全員合意の下で 「水族館へ行こう」 と決まりました。この時、
・なぜ水族館が選ばれたのか
・どのようなプロセスを経て合意に至ったのか
中村さん
「実は我々が普段モノ(一般的な消費財)を選んで買う時とは別のことが働いているのね。」
テリーP
「えっ、どういうことですか…!?」
ここからは中村さんが大学や専門学校で行っている『展示額』の授業で使用している資料をスクリーンに映しながらトークが進んでいきます。
家族や友達同士へどこに出かけるか。行き先候補となる集客施設などが表の上段に横並びに9つ例示されています。1)水族館、2)テーマパーク、3)動物園、4)博物館、5)美術館、6)スポーツ観戦、7)映画、8)商業施設、9)自然体験…。これらが一番左の列にある7つの ”カスタマーの要求内容” をどれだけ満たしているかを評価していきます。例えば、
中村さん
「自然体験はすごく ”③非日常を楽しめる” よね。密とか気にせずに ”⑤自由に時間を使って自由に会話が可能” だし、山の中でカナブン1匹見つけただけでも ”④知的好奇心を満足する” ことができます。でも ”①年齢性別に関係なく楽しめる” かといえば難しい。小さな子どもやおじいちゃんおばあちゃんを連れて山や川に行くのは大変だし危ないです。”②知識・教養がなくても楽しめる” かどうか? これも最低一人はアウトドアに詳しい人が必要よね。”⑥天候・気候・服装に左右されない” は自然の中だからね、当然メッチャ左右されます。」
このようにして一つ一つ評価をしていくのですが、水族館以外については以下のような結果となりました。
水族館と何かと比較される動物園は半分以上の項目が◎また〇ですが、やはり高齢者や小さな子どもを連れて園内を歩くのはやや酷であり、
中村さん
「特に女性は動物園に誘われても嫌がる人が多いです。だって臭いし、風が吹いたら髪の毛もバッサバサになるよ。足元もヒールとか履いて行けへん。全くお洒落ができない!」
また、日本の動物園はどの檻にどの動物がいるかがすぐに分かる展示スタイルのため発見の喜びに乏しく、水族館との比較では物足りなさ感じてしまう場合が多いようです。
さて、7つあるカスタマーの要求の中で最も厄介なのが ”⑦家族や友達を誘って全員が合意する” という項目。スポーツ観戦なら個々で贔屓のチームが異なるし、映画は何を観るかでまとまらない。テーマパークや博物館、美術館に関しても5~6人のグループだったら1~2人は難色を示す人が現れます。困りました、これでは行き先が決まりません。
中村さん
「いや、それが大丈夫なんや! 水族館だけは全部◎だから! 水族館なら全員の同意も得やすいんです!」
かと言って、水族館が積極的に選ばれているか言えばそれも ”否” である点が興味深い。
中村さん
「この超水族館ナイトに来ている人は例外として(笑)、世の中の ”普通の人” はなんとなく『水族館? まぁ、いいんじゃないかな!?』ぐらいの軽いノリで行き先に合意しているのね。要するに『どうしても水族館に行きたい!』という積極的な理由もないけれど、同時に『水族館に行きたくない』という理由も見つからないということ! だから女性を初めてのデートに誘う時は水族館がオススメです。水族館自体には断る理由がないからね。(あとは本人次第:笑)」
このようにカスタマーに特別『欲しい!』『行きたい!』と切望されなくても構わない。『それだったら、まぁ、OKかな!?』と多くの人が同意・賛意してくれるモノやコトがあること。それが中村さんの掲げる ”コミュニティーマーケット” の考え方だそうです。
中村さん
「”水族館の明日” は、このコミュニティマーケットをちゃんと捉えているかどうかによって大きく変わってくると思っています。お客さん達はコミュニティーマーケットを選ぶ方向へと自然に無意識に動いてくれるので、水族館側はそこをしっかり見極めて汲み取るだけで良いんです。それができる水族館はまだまだ伸びていけます!」
テリーP
「なるほど。 いやぁ、中村さんの授業をちゃんと聞けたようで嬉しいです。」
◆新江ノ島水族館の紹介
前半のメイントークが終わったところで、後半の部でゲスト(新江ノ島水族館・崎山直夫館長)を迎えるにあたり ”その予習” と言うことで中村さんが写真スライドを使って ”えのすい” について紹介をしてくれました。冒頭にも書きましたが中村さんが水族館プロデューサーとして独立して最初に展示プロデュースを行ったのが、この新江ノ島水族館でした。
この水槽には造波装置として大きな ”鹿威し” が2本設置されているそうです。
中村さん
「普通はでっかいバケツみたいなモノが水槽の上に付いていて、それが不安定になって水がバサッーと落ちる仕組みなんやけど、それはよく『鹿威し方式』なんて呼ばれていたのね。だからそれで通じると思って施工担当の業者さんに『じゃあ、ここは鹿威し方式で』と指示をしたら知らなかったらしくて本当に巨大な鹿威しを作ってきたんよ!(笑)」
…なんて当時のエピソードも明かしつつ ”えのすい” の紹介が進んでいきます。
この画像ではちょっと分かりにくいですが海藻の合間から覗くブルーの背景が、どこまでも続く海の奥行きを演出しています。(人呼んで『中村ブルー』)
相模湾大水槽は中村さんが美ら海水族館のジンベイザメが泳ぐ巨大水槽(黒潮の海)に「本気で勝負を挑んだ」という展示。
中村さん
「美ら海水族館が出来た時の内覧会で初めてあの巨大水槽を目にした時は『こんなのズルい! どうやっても勝てるワケない!』と愕然としました。でも、よくよく見ると奥の方に壁が見える。なんだ結局は大きさもたかが知れてるやん…ってね。」
中村さんはそれよりずっとサイズの小さい新江ノ島水族館のメインタンクに美ら海水族館を凌駕する ”本物の海の広がり” を 今や中村さんの代名詞となった ”水塊” のテクニックを駆使して再現。さすがにジンベイザメは入らないので、代わりに選んだのがうねり泳ぐマイワシの大群。その光景はまさに圧巻で、多くの水族館が同様の展示を採り入れていきました。
中村さん
「イワシの大群を真似したあちこちの水族館も、まさかそれがジンベイザメの代わりだったとは思っとらんやろうな!(ニヤリ)」
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