2021夏(vol.39) 〜水族館の明日はどっちだ!〜
◆水中ドローンで広がる深海展示
前半の部でも少し触れたように、”えのすい” は JAMSTEC と連携して、潜水調査船や無人探査機を使用しないと採集できない深海生物の飼育・研究をしていますが、最近では水中ドローンメーカー・FullDepthとも深海探査共同プロジェクトを立ち上げています。
崎山館長
「JAMSTECの調査船の守備範囲よりは浅く、かといってダイバーが潜っても届かない領域、水深100~300mぐらいを中心に500mぐらいまでの生き物を採集しようとしています。」
昨年は相模湾では79年ぶりの発見という幻のコトクラゲの採集に成功し、一般公開を行うなど成果を上げています。
中村さん
「深海系の展示が充実した水族館と言えば、沼津(沼津港深海水族館)やタケスイ(蒲郡市竹島水族館)あたりも有名やけど、あれは近くの漁港で深海の漁をやっていて、そこで一緒に獲れた深海生物をもらったりしているからなのね。でも ”えのすい” では探査船にしろ水中ドローンにしろ自分たちで採りに行っているのが強い。採った場所が分かっているからどんな環境に棲んでいたかも分かるし、実際に採集するから扱い方も分かる。」
しかしながら、前半の部で中村さんが嘆いていたように、深海研究にこれだけ力を入れ、高い成果もあげているのにもかかわらず ”えのすい” の深海コーナーは閑古鳥が鳴いている状況…。
中村さん
「まぁ、えのすいは全体的に展示が優れているからね、相対的に深海コーナーの印象が薄くなってしまうという一面は確かにある。とはいえ、深海にこれだけ注力する以上は沢山のお客さんに見てもらわんとなぁ…。」
崎山館長
「そうですね。当館がオープンして以来、深海の話題はかなり数を提供できているので、その意味では深海を身近なものとすることに貢献はできていると思います。あとは、それをもっと記憶に残る展示にしていけるように努力してきたい。深海の展示もだいぶ古くなってきましたし、今、一番リニューアルしたいと思っているところではありますね。」
中村さん
「何をどう作るか迷ったら中村元事務所にご相談を。今なら安くしまっせ!」
テリーP
「仕事の公開プレゼンになってるじゃないですか!」
客席:(笑)
◆水族館の展示と動物福祉
えのすいに行くと ”トリーター” という言葉を耳にします。トリーターとは生物を飼育(treat)し、お客さまをおもてなし(treat)する「展示飼育スタッフ」のことを指しますが、中村さんはトリーターの役割をもっと広げて「動物と人間の関係性をも ”取り持つ” べきでは」と崎山さんに提案をしていました。そこから話が膨らんで、トークは動物福祉にも及びます。
崎山館長
「僕は根っからの飼育畑の人間なので、動物福祉に関しては葛藤がありつつも避けていた部分が正直ありました。でも館長になった以上は、きちんと説明できないといけないので、今、一生懸命勉強しています。」
中村さん
「動物にとって最大の福祉は捕まえて閉じ込めないことや。でも動物園や水族館は、展示することでその生き物のことや生息地の自然を知ってもらうという目的があるからね。」
水族館における動物福祉を考える場合、まず第一に、”見せる” ために連れてきたのだからお客さんにちゃんと見てもらえること。中村さんはこれまでに何度も「お客さんに見てもらえない展示は動物が可哀想なだけなのでやめた方がいい」と述べています。第二に、展示をする以上はその生き物にとってできる限り良い環境を整えること。以前ゲスト出演した旭山動物園の本田直也さんは「見ているお客さんに『動物が可哀想』と思わせてしまう展示ならやらない方が良い」と言っています。
崎山館長
「本当にその通りだと思います。」
中村さん
「でもね、誤解を恐れずに言えば、僕は展示を考える時にあんまり動物福祉のことは考えなくていいと思ってるのね。」
これは動物福祉を無視するということではなく、
中村さん
「自分がフィールドに出て、生き物の本来の姿やその暮らしぶりをリアルに見て『一番感動したものを展示しよう、伝えよう』と考えるのね。それが達成された展示は多くの人に見てもらえるし、結果として動物にとっても暮らしやすい環境になっている事が多い。」
何を展示し、何を伝えるか。そこをしっかり考えることが、結果として動物福祉達成の近道でもなり、水族館の役割を果たすことにもなる。それが中村さんの展示の考え方・創り方です。
◆終わりに
新型コロナウィルスの感染拡大で ”えのすい” も最初の緊急事態宣言が発令された2020年3月から5月にかけて臨時休館に。それ以降は開館こそしているものの入場者はなかなか戻らず、書き入れ時のはずのGWも「お客さんが入らなかった」という…。
崎山館長
「ダメージは大きいですよね。」
そんな厳しい時期に舵取りを任された崎山さんですが、中村さんと交わす言葉の端々から熱い気持ちが伝わってきました。今後の新江ノ島水族館の発展に期待です!
テリーP
「館長から皆さんにメッセージはありますか?」
崎山館長
「今日、参加していただいている皆さんは普段からかなり当館に来ていただいているみたいですが、いつも新しい何かを見せられるように日々努力しています。さきほどのお見せしたシラスの展示などもその時々でサイズが違ったりしますけれども、そういった変化も含めて色々楽しめますので、ぜひ足を運んでいただければと思います。天気の良い時は景色最高です! 水族館を見終わった後は江の島に亘ったりとか、鎌倉方面に行ってお寺さん巡りをしたりとか、地域全体で楽しめるよう盛り上げていきますのでよろしくお願いします。」
客席:(大拍手)
次回予告
今回が39回目…ということは次回は ”40回記念” !!
超水族館ナイトでは節目の記念回にはビッグゲストを呼んできました。中村さんは当初20回記念の時にゲスト出演し、ライオンとヒョウに襲われた話から中村さんの若い頃の話までぶっちゃけまくって伝説を作った松島トモ子さんに再度出演してもらう約束を取り付けていたそうですが、まだまだコロナの厳しい状況が続いているため、松島トモ子さんの再来はまたの機会に。ガラリと趣向を変えて前・後半 ”中村さんの独りトーク” で行われることになりました。ツイキャス(有料)で2週間しかアーカイブが残らないこともあって、
中村さん
「水族館・動物園業界に意見してみたり、未来志向提案してみたり、そこそこ暴走しようと思っとる!(ニヤリ)」
と、まさかの暴走宣言!?もちろん爆笑ネタもたっぷり仕込んでくれるみたいなので、リアルでも配信でも ”笑って” 免疫力を上げていきましょう! …というワケで、みなさん、是非ご参加を…!
(文&写真:須釜浩介)