水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2020夏(vol.36) 〜マケルナ!こんな夏こそ水族館!〜

コロナ禍で水族館はどうなった!?

◆ 一時、全ての水族館が休館に

思えばクラゲをテーマに空前の盛り上がりとなった前回の『超水族館ナイト2020・春(2/16開催)』が最後の三密でした。その数日後から全国各地でイベントやコンサートなどの中止が相次ぎ、カルカルも例に漏れず予定されていたイベントが全て中止となりました。

やがて集客力の高い水族館を中心に休館が発表されるようになり、ついには政府の緊急事態宣言(4月7日に7都道府県に発令、16日に全国に拡大)を受けて、日本国内の全ての水族館が一時休館に追い込まれるという事態となってしまいました。

緊急事態宣言発令中の
水族館事情を振り返る

中村さん
「世間はステイホームしろとかテレワークしろとか言うけれど、水族館は休館中も餌をあげたり、水槽の掃除をしたり、生き物の世話をしなくちゃならない。よく『でもショーはやらなくてもいいんでしょ?』なんて言われるけど、トレーニングは続けないとダメなんです。」

テリーP
「芸を忘れちゃう?」

中村
「いや、忘れんへんと思うけど、アイツらズル賢いから忘れたふりをするんや。昨日まで何もしないで餌くれたからもうせえへんでええやろ…って。」

テリーP
「じゃあ、休館中もやることは普段と全く変わらないんですね。」

中村さん
「全く変わりません! そんな中でも水族館によっては休館中の様子を動画で配信したりとか一生懸命やっていた。でも、そんなことをいくら頑張っても全くお金にならないワケです。毎日に餌代はかかるのに、稼ぎ時の春休みもゴールデンウィークもなくなった。お盆休みもどうなるか分からん。」

テリーP
「うーん、つらいですね…」

中村さん
「そうそう、前回の『超水族館ナイト』では今年2020年はクラゲの新展示がいっぱいできると紹介しました。それもみんな延期になってしまったからね…。」

当初4月にオープン予定だった中村さんプロデュースのサインシャイン水族館のクラゲ新展示コーナー『海月空感』も公開延期となりました。(※その後、2020年7月9日に無事オープン。その様子は一番最後に…)

◆ 人生に ”まさか” は起こりうる

実はサインシャイン水族館には今回の(コロナ禍で公開延期になった)『海月空感』だけでなく、リニューアルの度に不測の事態に見舞われてきた歴史があるそうです。

サンシャイン水族館がグランドオープンした年は東日本大震災。中村さんは自身のテーマでもある「水塊」という言葉を口にできなかったそうです。いや、水族館の存在自体が津波などを連想させてしまう雰囲気すらありました。

中村さん
「復興優先で資材が回されたので工事が大幅に遅れて、グランドオープンも先に先に延びてしまった。でも、その間に松島水族館やアクアマリンふくしまが営業を再開して、お祝いムードになり、水族館の話題が解禁になったんです。そのタイミングでサンシャイン水族館がオープンできた! もう空前の大ヒットになりました。」

2017年の屋上エリア「マリンガーデン」のリニューアル(天空のペンギン/草原のペンギン)では高病原性鳥インフルエンザの影響で、春のオープン予定が夏にまでずれ込んだ。

中村さん
「この時もオープンが遅れたおかげで 『マツコの知らない世界』 で本邦初公開と大きく取り上げてもらえて、そのおかげでこれまた超ヒットしたんです。」

「運が良かった」で片付けてしまうのは簡単ですが、本来ならガックリと落ち込んでしまうところを耐えて、その時々できることを粛々と行ってきたからこそ運が向いて道が拓けたと言うべきでしょうか。

中村さん
「人生の中でどうしようもないことってあるやん? 自分で決められへんよ。自分の思いもしなかったところでゴロッと変わってしまうことなんていくらでもある!」

中村さんが熱弁!「自分で敷いた人生のレールをそのまま歩ける人なんて殆どいない。その時にどうするか!?」

中村さん自身も鳥羽水族館を退社して東京で独立をした時のことを振り返って、

中村
「別に鳥羽を出たかったワケじゃない。でも出なくちゃいけなかった。だけど、思いもしなかった出来事が起きた時に『新しい世界が開けた』と思えたら自分自身も新しくなれる気がするんです。だから負けたらアカンよ! この配信を見ている皆さんも、コロナでお客が減っても頑張っている水族館も、絶対負けてほしくないんや!」


逆境にこそ進化の道がある

中村さんの水族館哲学として過去の超水族館ナイトでも何度も語られた「生物の歴史において弱者だけが進化をしてきた」「逆境にこそ進化の道がある」とのフレーズ。現状で立派に生存できている者は進化なんかしない。そのままでは生きていけない者だけが進化のチャンスを得られるのだ…と。

◆ 進化のスイッチが入る逆境とは?

ケースとしては2通り。一つは強いライバルが出現した時、もう一つは環境が大きく変わった時。今回のコロナ騒動はまさに水族館を取り巻く環境が急激に変化したケースと捉えれば良いでしょう。そう、中村さんの水族館哲学に照らし合わせるなら、水族館は今、進化の時を迎えていると言えるのかもしれません。

中村さんが水族館の置かれた環境が大きく変化してことによって、水族館が進化を遂げた分かりやすい過去の事例を紹介してくれました。それは ”巨大水族館ブームの終焉” という環境変化。

中村さん
「30年ちょっと前です。日本はバブル景気で金余り状態で、内需拡大を推し進めようとリゾート法というものが作られ、日本各地で大規模な再開発が行われました。日本は国土が狭く山地の占める割合も高いので、再開発できる場所はせいぜい港ぐらいしかありません。お洒落なコンドミニアムを建てたり、ヨットハーバー作ったり、交通インフラも整備したり…。その中に人が集まる中核的な施設として水族館が選ばれたワケです。」

テリーP
「リゾート施設のアイコン的に大きな水族館を作るんですね。」

中村
「しかも当時はラッコブームの最中。ラッコも入れればさらに圧倒的な集客が見込めると踏んだデベロッパーはガンガンお金を使って巨大水族館を次々と建てたのね。」

マリンワールド海の中道、海遊館、美ら海水族館…等々。しかし、まもなくバブルは崩壊。巨大水族館は名古屋水族館・南館(1992年10月)が作られたのを最後に、最後に日本に巨大水族館は誕生していません。代わって今ではドバイや中国に世界最大級の水族館が誕生しています。

中村さん
「じゃあ、日本の水族館はダメになったのかと言ったら違うよね?某水族館プロデューサー様が暗躍した時代ですよ(ニヤリ)。正直、初めて美ら海水族館の大水槽(黒潮の海)を見た時は 『こんなん勝てるわけがない!ずるい!負けた!負けた!』 と思いました。」

…が、しばらくその場に立ち尽くしていた中村さんは、あることに気づいたそうです。その時に生まれた言葉が ”水塊” でした。

中村さん
「これは魚を見せているのとちゃうわ! 水中感や浮遊感、つまり水塊を見せているんやって! 『水塊』だと思って眺めているうちに、ひょっとたらお金をかけなくてもこれよりええもんが作れるんちゃうかって思い始めたのね。」

そして、中村さんの水族館プロデューサーとしての初仕事=新江ノ島水族館の展示プロデュースの際に、

中村さん
「(相模湾)大水槽…、いや、小さい水槽なんだけどそう呼んでいます。そこで美ら海水族館の象徴でもあるあの水槽を超える水塊を見せようとした。お金も場所も水量も使えない。でも勝てる方法を真剣に考えたおかげで、新たな視点を持つことが出来たんです!」

逆境でも視点を変えれば ”道はある” 。このコロナ禍で中村さんから勇気の出るメッセージをもらえた気がします。

おや、もうこんな時間だ!
彼を呼ばなくちゃ!

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2020/06/13