2021秋(vol.40) 〜過激に水族館展示論ライブひとり〜
中村さんの展示の考え方は ”解説がなくとも水槽を見ただけで情報がきちんと伝わる展示を創るべき” というもの。その伝える情報も水中世界や生命に対する興味や関心を喚起することを重視しています。水族館を訪れる人の多くは生物学の知識を持ち合わせておらず、そもそも水族館に理科(生物学・魚類学・生態学)学びに来ているわけでもありません。
中村さん
「僕の展示論は、そういった人たち(一般大衆)にも見てもらえるように ”まず視聴率を上げる” ところから入るのね。よくNHKの教育番組で、どこかの大学のエライ先生が難しい講義をしていたりするけれど、あれってどんなに内容が正確で素晴らしかったとしても誰も見ないやん?」
実際に視聴しているのは対象分野について、ある程度の予備知識を持ったごく限られた一部の人だけだと思われます。
中村さん
「それだったら薄っぺらくなってしまうかもしれないけれど、同じ内容をバラエティ番組として笑いと一緒に届けた方がよっぽど沢山の人に見てもらえて役に立ちます。動物に関する番組だと、昔 『野生の王国』という番組があったのを覚えてる?」
テリーP
「あった! 望遠で遠くにいるピューマを撮影したり。なんだか図鑑みたいな感じでしたよね。解説もあまりなくて…。」
『野生の王国』は野生動物に精通している人には ”刺さる” 番組だったのかもしれませんが、専門性が高く決して一般受けする内容ではありませんでした。そこに登場したのが中村さんも深くかかわった番組 『わくわく動物ランド』です。
『わくわく動物ランド』は、まず動物の可愛らしさから入って多くの視聴者を獲得。その上で様々な野生動物の興味深い生態を紹介していきました。この番組を通して世界には多種多様な野生動物がいることを多くの人が知ることとなりました。『わくわく動物ランド』が始まる以前は日本人の9割以上が存在すら知らなかったと言われるラッコを一躍有名にしたのはその最たる事例と言えます。(ちなみにラッコを超人気者にした仕掛け人は当時鳥羽水族館にいた中村さんでした)
中村さん
「僕は当時の『わくわく動物ランド』の存在意義みたいなものが水族館においても凄く大事だと思っているのね。」
地球は ”水の星” 呼ばれていますが、人間の生活に水の存在は切っても切り離せません。だからといって水族館で理科の教科書に載っているような「水の大循環」を科学的に解説しようとしても誰も耳を傾けてくれません。
中村さん
「それよりも、海の中にも世界があって、そこはどんな環境で、どんな生命がどんなふうに生きているかを見せること。その方が遥かにみんなの興味を引くし、ひいては地球の未来に役立つんです。」
テリーP
「深海魚ってこんなところで生きているんだ!とか」
中村さん
「そう!『深海ではこんな姿(異形)にならないと生きていけないんだ!?』とか、『水深1万千メートルまで行ってもちゃんと生きているってスゲェな!』とか。そんな深海魚の生き様を見て自分のことを見つめ直すなんてこともきっとあると思うんです。」
■ 違和感だらけの ”4つの役割” を斬る
水族館は未来に向けてもっともっと進化できるはず。しかし、日本の水族館にはその足枷になりかねない考え方が蔓延っていると中村さんは指摘します。それは日本動物園水族館協会(JAZA)が掲げている ”4つの役割” 。具体的には動物園・水族館が果たすべき役割として 「種の保存」 「教育・環境教育」 「調査研究」 「レクリエーション」 の4つを掲げています。
中村さん
「これね、本当にくだらなくて、僕は敢えて ”4つの言い訳” と呼んでいます。」
例えば、「種の保存」についてこのように述べています。
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引用元:
日本動物園水族館協会の4つの役割
https://www.jaza.jp/about-jaza/four-objectives
◯種の保存
「動物園や水族館では、珍しい生き物を見ることができます。でも、珍しいということは、動物の数が少なくなっていることでもあるのです。 生き物は、個々の動物園や水族館のものではなく、私たちみんなの財産です。動物園や水族館は、地球上の野生動物を守って、次の世代に伝えていく責任があると考えています(希少動物の保護)。 動物園や水族館は、数が少なくなり絶滅しそうな生き物たちに、生息地の外でも生きて行ける場を与える、現代の箱舟の役割も果たしているのです。」
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中村さん
「これ、おかしくない? 動物を標本として残すと言う意味にしか聞こえないよね。 サバンナでゾウが生きていけなくなりました→でも動物園にいるから大丈夫です、 イルカが海で生きていけなくなりました→でも水族館にいるから大丈夫です…と言っている。これでは動物園・水族館は野生生物が自然の環境下で生存していくのを諦めましたと宣言したに等しい。動物園・水族館は自然環境の保全のためにあると言えなかったら、そんな動物園・水族館はいらんわ!」
破壊された自然環境は元には戻らない。それは百も承知のこと。
中村さん
「だからと言って諦めたらアカン! 諦めなかった1つでも残せるかも分からん。今、流行りのSDGsだってそうよ。ハッキリ言って上手くいくワケがない。それでも一度立ち止まって考える社会を作らない限り、持続できるものも持続できなくなってしまう。だから一生懸命に取り組んでいるんです。」
テリーP
「これはいつ誰が書いたんですか?」
4つの役割が掲げられた経緯としては、40年ほど前から「動物園や水族館は要らない」と主張する動物解放の人たちの活動が活発化し、動物園・水族館に厳しい目が向けられ始めたことに対し、早急に飼育の正当性を主張する必要あったものだと推察されます。しかし、その場凌ぎのあまりに薄い弁明に終始してしまっている印象は否めません。
テリーP
「本当に言い訳という感じですよね…。」
客席からも「私もおかしいと思っていた」「ずっと疑問に感じていた」との声が上がっていました。
残る3つ(教育・環境教育/調査研究/レクリエーション)については詳細割愛しますが、語り口が幼い子ども向けであったり(人口の僅か数パーセントの小さな子供のために生き物を野生から連れてきて飼育するなんてことは許されない。大人に良い影響を与えられる施設でなければならない)、動物園・水族館では生き物が長生きであることを強調したり(長生きするから幸せではない。病院生活だから長生きできているとも言える)、単に「みんなで」「楽しい」だけを強調した非常に狭い意味のレクリエーションを掲げていたり(リ・クリエーション=自分自身を再創造し、生きる力を得られる場所であるべき)、どこもかしこも違和感だらけです。
中村さん
「こんな言い訳はすぐに崩れます!この4つの役割は水族館の本質ではありません! もっと言えば世の中に通用しない4つの言い訳だと思ってます!」
テリーP
「いやぁ、さすがゲストがいないとトバしますねぇ。言うこと言ってデトックスしたみたいにスッキリした顔していますけど…。」
客席:(笑)
さて、ここまでは下準備。中村さんの展示論はここからです! 水族館の本質とは何か、言い訳ではなく「命を展示する意味」とは…。後半(第二部)へ続きます。
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