2021秋(vol.40) 〜過激に水族館展示論ライブひとり〜
■ 水族館に与えられた使命~その2
水族館にはもう一つ大事な使命があるそうです。近年、文科省は社会教育施設に対し次のような指針を打ち出し、その推進を求めています。
- 地域活性化・まちづくりの拠点として機能への期待
- まちづくり行政、観光行政分野との一体的な取組みの推進
中村さん
「これもすごく水族館が大事にしなければいけないこと!」

大きな貢献ができる施設である
北の大地の水族館は、冬に凍る川の水槽や温泉水のPRによって、誰も訪れなくなっていたかつての観光地に賑わいを取り戻しました。
中村さん
「それまで町の人たちは冬に寒すぎることを隠したいとさえ思っていたのだけれど、今ではその寒さを町の誇りにするようになったんです。」
海響館(市立しものせき水族館)はフグと関門海峡をテーマに掲げ、下関の観光と物産に貢献。竹島水族館は奇跡のV字復活を遂げたことで有名ですが、その要因の一つに深海魚にスポットを当てたことが挙げられます。竹島水族館がある蒲郡市は深海魚を漁獲する漁船が入港しています。
中村さん
「蒲郡の深海生物漁を愛する市民に非常にウケたんですね。今ではメヒカリを使った魚醤を作ったり、深海魚まつりを開催したり、”たけすい” が町づくりの起爆剤になっています。」
そして、なんといっても美ら海水族館。沖縄の海を再現したことで、観光集客と観光振興に多大な貢献を果たしています。地域活性やまちづくりのを支えることができる社会教育施設として、今、水族館のは存在価値はますます拡大しているそうです。
■ 命を展示する意義
さて、ここまで水族館の使命について見てきましたが、
中村さん
「『人の活動のために、人の町のために、人の社会のために、生きた動物を展示する意味があるの?』と思われる方もいることでしょう。でもね、命というのは伝えるもののパンチが強いです。水族館の利用者は水塊を求めています。でも、もしも美ら海水族館(「黒潮の海」の水槽)にジンベイザメがいなくて、でっかい海の中だけを見せられるとしたら、それを見に行きますか? 行きませんよね。お客さんは『ジンベイザメを見に行く』と言って美ら海水族館にやって来ます。でも誰もジンベイザメを観察したいとは思っていません。ジンベイザメのような巨大な生物がいくつも浮いている海を見に来ているんです。海の水だけでは展示物にならないし、ジンベイザメだけでは展示物にならない。両方あって初めて人の心に訴える展示になります。」

両方があって水塊となる。
生き物がいてこそ可能となるのが ”知的好奇心の刺激” です。先ほども触れた北の大地の水族館の「四季の水槽」で、真冬に凍った川の下で果たして魚はどのようになっているのか。
中村さん
「ひぇえ~!本当におる! 生きとる!? 大丈夫なん!?…って好奇心が湧きまくりです。好奇心を持たせてくれるのは自然環境だけではダメで、そこに生き物がいてこそなんですね。」

人間が他の生物と大きく違う点として「大人になっても好奇心を失わないこと」が挙げられます。
中村さん
「知的好奇心を持ち続けているから、色々な文化が生まれてくるし、知的好奇心を満たそうと研究を究める人がいるから未知のエネルギーを発見できたりする。人間にとって知的好奇心は絶対になくてはならないものなんです。」
知的好奇心を自ら持つこと、知的好奇心を満たした時の嬉しさを覚えること。この2つが非常に需要であり、
中村さん
「それが本当に簡単に、いつでもできて、しかも好奇心のネタが豊富で尽きないのが水族館なんです! しかも ”万人にとって” です。」
現状の動物園、水族館のスタッフについて中村さんは「まだまだ好奇心が足りていない!」と手厳しい。
中村さん
「好奇心がないから他所の園館の『あの展示が良かったからウチでも真似しよう』とか、その程度に留まってしまう。僕はそんな人は育てたくないんです! 100人に1人でもいい。新しい道を拓いていくれる人が出てきてくれたらいいなぁと思ってます。」
実は 2019年の秋に開催された超水族館ナイト でも ”命を展示する意味” が詳細に語られています。水族館は単に「可愛いから」「珍しいから」といった理由で生き物を飼育することは許されていません。命を展示することで、それぞれの生き物のことや生息地の自然環境のことを伝えることができ、また、見るもの(大人)に良い影響を与え、それが地球とって(つまり野生生物にとっても)良い影響を与えることができるからこそ飼育が許されています。水族館にいる生き物たちは申し訳ないけれど種を代表して野性下から来てもらった謂わば大使のような存在。水族館にはその大使メッセージを伝える責任と覚悟が求められます。(その意味では、プロジェクションマッピングのような ”映え” ばかりを追求して集客を図っている水族館は本質から外れていると言わざるを得ません)
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