水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2021秋(vol.40) 〜過激に水族館展示論ライブひとり〜

第2部より

休憩を挟んで第2部がスタート。第1部の内容を踏まえて、いよいよ中村さんの ”展示論” を深く学んでいきます。

後半戦、第2部が始まりました。

超水族館ナイトにおいては、たまに写真スライドを見せる程度で、ほぼ資料を使わずにトークを行う中村さんですが、今回は中村さんが大学の学芸員コースや専門学校の水族館プロデュース学科で行っている『展示論』の講義で実際に使用しているテキストをスクリーンに映しながら展示論を説明してくれました。

こんな感じのテキストです。
(クリック or タップで拡大)

テリーP
「こんなすごい資料、見せちゃっていいんですかっ…!?」

中村さん
「まぁ、たいしたことないけどな!(ドヤ顔)」

学校で授業を行う際は基本的に ”板書派” という中村さんですが、なにぶんこのコロナ禍です。いつオンライン授業に切り替わるかわからない状況。

中村さん
「オンライン授業では板書はまったく読めんからな…。だからちゃんとした講義テキストを用意しました。このテキストがあれば僕のことを慕ってくれていている全国の動物園・水族館で頑張っている門下生の飼育スタッフの子たちにも展示論をゼミできるしね。」

超水族館ナイトに参加しているお客さんもある種の ”門下生” みたいなもの。みなさん真剣な中村さんのトークに聞き入っていました。

■ 水族館に与えられた使命~その1

本来、水族館とはどのような施設なのでしょうか。 社会教育法、博物館法において博物館及び動物園・水族館は ”社会教育施設”として位置付けられています。

中村さん
「社会教育施設の対象者は子どもではなく青少年から成人です。分かり易く言うと『鬼滅の刃』を読んでいる年代の人たちや(笑)。そして社会教育が提供するのは、学校教育に基づかない教養・趣味・リクリエーションなどです。」

テリーP
「要するに教科書には載っていない教育ということですね。」

中村さん
「その通り。法律でちゃんとそう書かれている。なのに『この魚は〇〇属〇〇科である』とかさ、理科(生物学・魚類学・生態学)ばかり必死に教えようとしている水族館ってあるやん?」

しかし、前述のとおり理科教育をしようと設置された解説板はことごく読まれていません。どんなに厳密で正しく立派な解説であっても、読まれなければ何も伝えていないのと一緒です。

第1部で「解説なんかなくても水槽を見ただけで情報が伝わる展示であるべきだ」という話がありましたが、水族館はそれがいくらでも可能な施設です。水族館は英語で ”aquarium” と表記されますが、近代アクアリウムの創始者と呼ばれるゴス(Philip Henry Gosse)は海洋生物の博物画を数多く残しました。ゴスが博物画を描く際はガラスの水槽に生き物と一緒に必ずライブロックを入れて自然下と同じ水中環境を再現したそうです。それが100年以上の時を経て進化したのが現代の水族館です。

中村さん
「水槽というイレモノを使って水中世界を展示しているのね。魚の色とか形だけでなく、それがどんな環境でどんなふうに棲んでいるのか、他のどんな生き物と共生しているかなど、水槽を一目で見ただけで全部分かってしまう。これが水族館の展示物です。こんな凄い展示物を ”創る” ことができるのは水族館の他に見当たりません!」

超水族館ナイトでは超異例…!?
資料を使った講義が展開中。

中村さん
「その意味では、水族館は博物館の中でも美術館に近いと思っているのね。あれは絵の技法を見せているものでもないし、もちろん絵に描かれたリンゴという種を見せているワケでもない。」

芸術に疎いと、つい ”絵の上手いor下手” で考えてしまいがちですが、絵の技法に関してはその道の専門の学校など通って学べば、得手不得手による個人差はあるにせよ一定水準には辿り着けると考えられます。技法の先にある良い画家の条件とは何でしょうか。

中村さん
「僕は優れた画家は2つのものを持っていると思っています。一つは表現力。もう一つは理解力。特に理解力がとても大事だなぁと考えています。例えば、ピカソの絵。モデルの女性を前から横から斜めから色々な角度から見て、さらに外見だけではなく内面も見なきゃと言って、優しい顔をしているけど怖い心も垣間見える…等々、彼なりに理解したんですね。その理解力が激し過ぎた。それをどうにか1枚の絵に表現できないかとを考えに考えて生まれたのがキュビズムです。ピカソの有名な作品『ゲルニカ』は、描かれた時代背景などの前提知識を全く持たずに鑑賞しても、戦争の悲惨さが伝わってきて、こんなこと二度と起こらないようにしなきゃという気持ちがなぜか湧いてくる。こんなことが起こるのは彼が優れた理解力と表現力を兼ね備えていて、その使い方が凄く上手だったからです。」

水族館が ”美術館的” ということは、水族館の飼育係は画家(芸術家)に相当します。優れた水槽展示を創るためには、水中世界を理解し、その理解したものをお客さんに(解説なしに水槽だけで)伝わるように表現することが求められます。

中村さんが理解力と表現力に長けた展示を3つ紹介してくれました。

水族館の水槽展示は
理解力と表現力で創られる。
(クリック or タップで拡大)
  • サンシャイン水族館「天空のペンギン」(スライド写真左)
  • マリホ水族館「うねる渓流の森」(スライド写真中央)
  • 加茂水族館「クラゲドリームシアター」(スライド写真右)

中村さん
「マリホ水族館の展示は『川ってスゲェな!』というところから入って、そのスゲェ川に生きている『魚ってスゲェな!』、さらに『生命って美しいな!』となっていく。ミズクラゲなんて1匹だけ見たらなんか気味悪いし、数分観察したらすぐに見飽きるよね。でも加茂水族館はそれを直径5 メートルの水槽に数千匹~1万匹と入れました。そうしたらどうなった? 視界が全部クラゲになる。ずっと見ていられます。全国からその浮遊感や清涼感に癒されたい人が大勢来るようになりました。」

この3つには共通点があるそうです。それは ”水” の存在を感じられること。激流で生じた泡や水面の波のきらめきで水を可視化したり、生き物の動き(ペンギンに上下左右に泳ぎ回る様、クラゲがフワフワと泳ぐ様)を通して、そこに水があることが伝わってきます。

これを中村さんは ”水塊” と呼んでいます。

中村さん
「水塊を通して水中世界を見せることで、大人の好奇心を刺激したり、心身をリ・クリエイトする。それが水族館です。」

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2021/10/17