水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2020秋(vol.37)〜人はなぜ水族館に向かうのか〜

なんと、やり直しのアンケートの結果も、

中村さん
「1位はやっぱりカメでした!」

客席:(!?!?)

テリーP
「カメめっちゃ強っ!」

中村さん
「そして2位にカエルが入って、ペンギンが3位になりました。」

海獣パフォーマンスなんていかにも子どもが好きそうですが、イルカもアシカもまさかのランク外。そして信じられないことにラッコの「ラ」の字も出てこないという有様。

中村さん
「さすがにこの結果には驚いて『なんでやろ?』と一生懸命考えました。 子どもたちにも話を聞きました。そうしたら『だって会いたいやろ!』って言うんです。」

アンケートで上位にランクインしたカメ・カエル・ペンギンは、絵本などで子どもたちが既に知っている生き物ばかり。結局、動物園が子どもたちに大人気なのは会いたい動物がいっぱいいるから。絵本の他、子ども向けの玩具やぬいぐるみ、衣服のワッペン・アップリケのキャラクターに使われたりなど、”名前は知っているけれど、まだ本物を見たことがない動物たち” にリアルで会える場所だからでした。ゾウ・キリン・ライオン・トラ・ゴリラ・ブタ・ウシ・ウサギ・サル…等々。

水族館における子ども人気No.1=「カメ」から読み解けることは…?

中村さん
「だから動物園は子どもの基礎教養を高めるのにとても良い場所なんですね。子どもが 『ゾウさんは本当に大きくて鼻が長いの?』 と聞き始めたら、お父さんお母さんは子どもを動物園に連れて行ってあげます。そして子どもは本物のゾウさんに会って大興奮! ゾウさんが大好きになって、また動物園に行きたくなるワケです。」

対して水族館にはそのような生き物が少ない…。

中村さん
「実はカメもカエルもペンギンも動物園にもおるやん? でも動物園には他に魅力的な生き物が沢山いるからそっちに夢中になる。水族館が子ども呼んで集客しようとしても、動物園で後回しにされている生き物でしか勝負ができないワケです。」

テリーP
「じゃあ、動物園に比べてだいぶ弱小ということですね?」

中村さん
「弱小も弱小! でも、さすがに子どもたちも3回、4回…とゾウさんに会うとだんだん飽きてきます。そして次のものに興味が移っていきます。そうやって人間って成長していくのね。」

そこで、ようやく水族館の出番!

…となれば良かったのですが、当時の水族館は薄暗く、館内の至る所に水が溜まっていたり、不快な臭いが充満していたり、出来の悪いお化け屋敷のみたいな雰囲気のものが多く、積極的に「行きたい」と思える施設ではなかったそうです。当時の水族館の主なお客さんといえば、修学旅行や遠足の生徒・児童、そして特に地方の水族館において顕著だったのは会社の慰安旅行などの団体客でした。

中村さん
「昔の鳥羽水族館には1日何十台のもの社員旅行の団体バスが来ていたなぁ。お酒を飲んですっかり出来上がってやって来るお客さんもいて、僕が水槽の前で解説を始めても誰も聞いとらん! 水槽の中身なんて見もせずにガヤガヤ大騒ぎ。そんなお客さんばかりだったんです。」

やがて、時代の流れで社員旅行を実施する企業が大きく減少。

中村さん
「そうなった時、今までどんなお客さんが来てくれていたのかをきちんと分析・把握できていなかった水族館は、対策が打てずに閑古鳥が鳴いてどんどん廃れていったのね。」

慌てて子どもを呼ぼうとしても動物園のようにはいかない。大人を夢中にさせたラッコも子どもには全く響かず(ゾウさんキリンさんが先!)という状況。さて、鳥羽水族館時代の中村さんはどのような手を打ったのでしょうか?

中村さん
「うん、オレってさぁ、頭ええんやろな(ドヤ顔)! 社会全体で見たら子どもより大人の方がずっと多いやん? しかも、どんどん少子化に向かっていく時代や。それなら子どもよりも大人が興味を持つような展示、大人が行ってみたい思うような水族館を目指した方が得やと考えたのね。”大人向けの水族館” に変えたんです。」

子ども人気はもう動物園に任せて ”大人” がターゲット。 従来の暗い・汚い・湿っぽいという水族館のイメージを一新したそうです! 中村さんが掲げたキャッチフレーズは ”デートに使える水族館”。中村さんの戦略は大当たり。新たな客層の開拓に繋がりました。これに続く水族館も増え、まもなく水族館が動物園を逆転する新時代の到来しました。

中村さんは発想の転換で「大人向け」水族館へと舵を切った。

1-3 水族館マーケティング~中村元の流儀

中村さんが水族館の展示をプロデュースする際に重視しているのがカスタマー目線でのマーケティング。例えば、来館したお客さんの後ろに張り付いていて館内での行動を徹底的に観察するそうです。どの水槽をどれだけ見ているか…など。そして、アンケート調査。

⇒ 今日はなぜ水族館に来たのですか?
圧倒的に多いのが 「暇だったから」「誘われたから」 という回答。ここからまず ”時間にゆとりがあって、どこかに行こうとしている人たち” という市場が見えてきます。

⇒ 行き先に水族館に選んだ理由はなんですか?
明確な目的があって来館した人は少なく、「心地良さそうだから」「癒やされそうだから」と、ぼんやりとした理由で水族館が選ばれていたそうです。特に夏場は「なんとなく涼しそうだから」という回答が激増。

テリーP(突如ソーメン二郎モードで)
「あっ、そうめんと一緒じゃないですか!」

中村さん
「そうやね。暑くなってくると水モノが恋しくなるし、メディアも急に水モノの露出が増えるからね! 」

以上のことからも、人が水族館に向かうのは ”水生物の観察” が目的なのではなく、水中という非日常の世界に身を置いて「心地良い水中感や浮遊感や清涼感を味わいたいから」だと言えそうです。中村さんは「人間の祖先は食材が豊富で且つ敵も少ない海で進化したのではないか」という人類水中進化説(アクア説)を信じているそうで、

中村さん
「水族館を訪れる人々は、そこに再現された綺麗なブルーの海の景観を見て、”水中人” だった祖先の記憶が呼び覚まされて ”癒しの力” を感じているんちゃうかな?」

逆に言えば、多くの人に選ばれ、足を運んでもらえる水族館を作るには、「どこまでの広がるブルーの空間」、「水の浮遊感・清涼感」、「水の存在を際立たせる水中生物の立体的な躍動感」といった要素が必要で、中村さんはそれらを『水塊』という言葉で表現。その「水塊」度の高い水槽展示を実現することで、水族館を訪問した人たちの満足度を高めています。

また日本人にはアニミズム、即ち万物に魂が宿っているという考え方が根付いていて、

中村さん
「海にも川にも沢山の神話があって神聖な場所と捉えられています。僕が水槽を作るときは魔境のような真っ暗な海ではなく、明るい沖縄のような海をイメージするようにしています。」

水族館には自然そのもの、生命そのものを伝える役目があり、自然と触れる機会のなくなった現代の日本人に「自然の中に入ったらどんな気持ちになるかをもう一度思い出してしてもらう場所にしたい(中村さん)」とのことでした。

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2020/10/18