水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2020秋(vol.37)〜人はなぜ水族館に向かうのか〜

1-4 吸引力のある水族館とは?

2020年もいくつかの新しい水族館(大規模リニューアル含む)が誕生しましたが、中村さんの新水族館の評価は「悪くはないけどちょっと残念」というものでした。理由としては、

中村さん
「その水族館に行きたくなるような ”吸引力” が足りなかったかなぁ…。」

例えば、沖縄に新しくできた水族館は入館してすぐのところにあるのが亜熱帯ゾーンで、東南アジアやアマゾンの淡水魚の展示されています。そこを抜けると今度はフンボルトペンギンが現れる…。

中村さん
「いやちょっと待て! 沖縄といえばやっぱり海やろ!? まず海を見せろよ!と思わん?」

テリーP
「確かに。」

また、大型リニューアルをした高知の水族館についても

中村さん
「高知の水族館に来たらやっぱりカツオを探すやん?でも見当たらない。じゃあ、土佐の怪魚アカメはどうだ? いました。でも凄く小さな個体でした。一番最初に『人は水族館に魚を見に行っているワケではない』とは言ったけれど、でも ”その土地のモノ” は見たいワケです。その地域の自然はどうなっているのかとか、その地域に暮らす人たちと海との関わりや食文化はどうかとか知りたいワケです。水族館はその地方・地域のイメージシンボルにもなれる存在なのに、それをしていないのはもったないなぁと思ってしまったのね。」

毎度のことながら事前打合せ無しのぶっつけ本番のトークが続く。これ以上ない ”生きた” イベントです。

「水族館が発信するモノ」と「お客さんが興味を持つモノ」が異なっていると吸引力はなかなか生まれてこない。ひと昔前の北海道の水族館には、冬に寒い地方だからこその憧れでトロピカルな海の展示が多かったそうです。しかし、北海道の水族館を訪れる人の多くは ”北海道のこと” を知りたがっていることに気づき、展示の内容が大きく変わっていったと言います。中村さんがプロデュースした「北の大地の水族館」などは ”北海道の自然そのもの” を展示していて、まさにその典型と言えます。

中村さん
「その意味では僕がプロデュースした中ではサンシャイン水族館なんて凄くやりにくかった。”その土地のモノ” がないからね(苦笑)。だから水塊を作って、天空のペンギンだの、海月空感だの色々とやっているワケです。」

「水塊」がなくても、スター選手的な生き物がいなくても、多くのお客さんを集めている水族館も存在します。その一例が中村さんの愛弟子・小林龍二さんが館長を務める蒲郡市立竹島水族館。

中村
「”たけすい” は水塊もないし、展示も正直ショボイ水族館です。でも、スタッフが一生懸命に工夫して頑張っているそのストーリーが素敵で応援したい人、勇気をもらいたい人が大勢訪れているのね。彼らは生き物が好きなワケでも、海に興味があるワケでもない人たちです。でもそういった人たちが水族館に来てくれて、そこにいる生き物たちのことを見て知ってくれたら、展示をしていることに十分に意味があるし、水族館の生き物たちにも『こんなところに閉じ込めてごめんなさい』と言える理由ができるんです。」

深イイ ”中村節” が響き渡ったところで前半の部が終了。

後半は 水族館に ”吸引されすぎてしまった人たち” が登場します。

中村さん
「たまにはユーザー側の立場からの話も聞きたいと思って今日は彼らを呼びました。…が呼んでからちょっと失敗したかなぁ…と(苦笑)。彼らは水族館が好きとかちゃうで。もはやコクレターや!」

客席:(笑)

さあ、どうなった!?


後半の部より

…というワケで、迎えた後半の部、 日本を代表する水族館ブロガー三人衆 の登場です! 一部SNS界隈で「エピソードが強烈すぎて本当に実在する人物なのか!?」とまで言われていたカリスマたちがついにカルカルのステージに!

後半戦スタート!

2-1 ゲスト紹介(水族館ブロガー三人衆)

◆ めnち(新井竜実)
 ⇒水族館に行ってまいります。

水族館巡ラー歴9年。水槽のある所ならどこへでも足を運ぶ真の物好き。これまでに総額300万円を超える旅費を投じ、全国各地のありとあらゆる水族館及び水族館類似施設を巡り歩いている。超ペーパードライバーゆえ車の運転ができず、移動は全て公共交通機関と徒歩時々レンタサイクルという制約付き。それでも僻地にある施設を次々と制覇していく執念に驚かされる。水族館だけでは飽き足らず最近は「動物園巡り」も始めたとか。好きな水族館は アトトぎふ 。理由は「魚には全く詳しくない自分でも珍しい魚がいることがなんとなく分かるし、擬岩などがいっぱいある展示に惹かれるから!」。

実はこれまで全く顔出しをしていなかっためnちさん
今回の超水族館ナイトで堂々顔出し出演となりました。

◆ かめきちかめぞう
 ⇒かめきちの水族館ブログ

オッサン風なHNながら実は女性。HNの由来は足が遅いから。メジャーな水族館はもちろん極小規模な水族館類似施設の探索にも心血を注ぎ、自家用車で日本中を駆け巡っている。めnちさん同様「魚のことは全くわからない」と言うが、魚が生き生きと見えない水槽には手厳しい(最近流行りのアートアクアリウムはその魚本来の色すら分からず苦手)。好きな水族館は 九十九島水族館海きらら 。とりわけ「九十九島湾大水槽」がお気に入り。(余談ですが中村さんの祖父もカメゾウさんというらしい)

かめきちさん

◆ ミストラル(奥津匡倫)
 ⇒ミストラルの水族館ブログ

前出の二人(コレクター気質)とは異なり、”魚” を目当てに水族館に足を運ぶ自称・正統派。僻地の小規模施設を嫌がる傾向があるが、水族館ブロガーとして ”義務” と割り切って出かけていくこともしばしば(訪問した先で貴重な魚に出会えたら万々歳)。2013年に出版された中村さん監修の書籍 『水族館で珍に会う(エンターブレイン)』 にてライターを務めており、同年2月に開催された超水族館ナイトへのゲスト出演も果たしている。今回が7年ぶりの2回目の出演。とにもかくにも魚に精通し、中村さんが魚種同定を頼りにする一人。

7年ぶりの超水ナイト登壇!
ミストラルさん

2-2 水族館巡ラーになったキッカケは?

< めnちさんの場合 >

めnちさん
「僕は何を隠そう 中村元 ”大先生” の全国水族館ガイドですね。」

中村さん
「彼、ええ人やわぁ」

客席:(笑)

めnちさん
「音楽制作などの創作活動していた時期があって、「水族館!」みたいな曲を作りたいと思って、手始めにしながわ水族館に行ったんです。その時に関東や全国にはいったいどれくらいの水族館があるのだろうと気になって、帰りに本屋さんに寄って中村さんの全国水族館ガイドを立ち読みしたんです。」

中村さん
「えっ、立ち読み…!?」

 後にちゃんと買ったそうです 

めnちさんが手にしたのは 112施設 が紹介されている2010年版の水族館ガイドでした。(最新の2019年版は125施設が掲載されています)

めnちさん
「112ぐらいだったら全部巡れるんじゃないかと思って(笑)。それで巡り始めたんです。50館、60館と巡ったあたりで、ああ、なんて世界なんだ…と。気づいた時には完全に沼にハマってましたね。僕が水族館巡りを続けている理由は、魚が好きとか動物が好きとかではなく ”実績のロック解除” みたいなイメージです。 何箇所制覇したら金トロフィー獲得!的なゲーム感覚ですね。」

中村さん
「ほら、やっぱり!完全に ”コレクター” やん!(苦笑)」

中村さんのガイド本を手に順調に水族館を制覇していっためnちさんですが、

めnちさん
「巡っているうちにガイドに載っていない水族館があることに気づいちゃったんです。なんだよ、インチキなガイドじゃねぇか!…って(笑)」

中村さん
「やられたー。」

客席:(笑)

テリー
「ついさっきまで ”大先生” とか言っていたのに!(笑)」

ミストラルさん
「昔は中村さんのガイド本に載っていない水族館を見つけると嬉しかったんですよね。だから僕も探してましたよ。そうしたいったら…いっぱいあったね(笑)」

中村さん
「言っておくけど僕の水族館ガイドに載っていない施設は水族館じゃありません! 水族館と呼ぶには足りない水族館類似施設です!」

正論。…とはいえ、「水族館とは何か」という万人共通の定義があるワケでもなく、結局「ゴールは自分で設定するしかない」と語るめnちさん。本イベント開催時点で水族館類似施設も含めると 274施設 をクリアしているそうです(凄い!)。そんな彼にゴールは見えているのでしょうか?

< かめきちさんの場合 >

かめきちさんは2007年頃にお子さんを連れて車でたまたま選んだ行き先、アクアワールド大洗水族館に出かけたのがそもそもの始まり。

かめきちさん
「地図を見たらちょっと上(北)の方にもう1個水族館(アクアマリンふくしま)があったんです。」

中村さん
「だいぶ上やけどな…」

客席:(笑)

かめきち
「次の日も休みだからその水族館にも行くことにしたんです。車の中で泊まって…。それがすごく楽しくて。…で、地図を見るとさらにその上にも水族館がある。その先にもずっとある。全国ず~~っと水族館があることに気づいちゃったんです。」

かくして家族レクリエーションとして車で全国の水族館巡る旅がスタート。なお、お子さんは「あまりにも連れ回しすぎて途中で水族館が嫌いになってしまった(かめきちさん談)」とか。そして、めnちさん同様に僻地にあるような小規模施設にも積極的に訪問していくスタイルに…。

かめきちさん
「水槽のある世界が好きなので水槽があればどこへでも行きます!」

< ミストラルさんの場合 >

魚が好きで魚に超詳しいミストラルさんが水族館巡りを始めたのは、もちろん好きな魚、見たい魚を見に行くため。

中村さん
「珍しい魚が展示されているという情報が入るとすぐ飛んでいくよね?」

ミストラルさん
「今、行かなければその魚の生きた姿は一生見られないかもしれない。人生で最後の機会かもしれない。そう思ったら行くしかないですからね。時間との戦いになる魚もいますから、なるべく早く行くようにしていますね。」

2020年10月にアクアマリンふくしまで11年ぶりにバショウカジキが展示され(12/5展示終了)、名立たる水族館巡ラーがこぞって駆け付けるなど騒然としていましたが、ミストラルさんは11年前のバショウカジキを見ていたそうで今回は ”高見の見物” モード。むしろ東海大学海洋科学博物館で展示されていた珍しい深海魚・スミクイウオなどに注目していたそうです。さすが一歩先を行く玄人といった感じです。

スクリーンの写真はミストラルさんが11年前にアクアマリンふくしまで撮った貴重なバショウカジキの姿。

あくまで魚がメイン!魚第一主義のミストラルさんですが、水族館ブロガーを名乗り注目集めている以上、沢山の施設の展示状況も知っておきたい事情もある。…ということで、水族館巡りの ”数” もキッチリこなしています。

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2020/10/18