2019秋(vol.34)〜命を展示するということ〜
※この記事はイベント会場の ”東京カルチャーカルチャー” のWebサイトに掲載されていた
公式ライブレポートを一部修正の上、転載したものになります。
2019・秋 (vol.34) の超水族館ナイトは非常に重要なテーマを扱いました。
”命を展示するということ”
2019年・春の超水族館ナイト( vol. 33 )にて、ゲストの本田直也さん(札幌市円山動物園)が次のようなことを言っていました。
「動物園が動物を沢山飼育しているのは、可愛いからとか珍しいからと言った理由ではありません。そんな理由で希少な動物を飼うわけにはいきません。動物園にいる動物たちは自然界からその種を代表して来てくれた謂わば ”大使” なんです。その生き物のことや生息地のことなどを私たちに伝えるために来てくれています。だから動物園は展示を通して来園者の方にそれをしっかりと伝えなくてはなりません。」
水族館も然り。
伝えるべきメッセージがあるから ”命を展示” しています。
・水族館が伝えるべきこととは?
・水族館の展示の在り方とは?
34回目の超水族館ナイトは、そんな ”水族館の本質” を再確認していく内容となりました。
後半(第二部)のゲストにはなんと 市立しものせき水族館・海響館 の 石橋敏章 館長! 石橋館長は JACRE(日本鯨類研究協議会)の代表幹事でもあり、「JACREのことが公に語られるのはこれが初めてではないか」と中村さん 。水族館ファンの間でも注目度は高く、チケットはソールドアウト! いつにも増して熱気に満ちた超水族館ナイトとなりました。
特別メニューを紹介
超水族館ナイトでは毎回イベント限定の特別メニューが提供されています。
DRINK
まずは大人気の 「超水族館カクテル」。超水族館ナイトをイメージした爽やかなブルーが人気のカクテルですが、毎回トークテーマに合わせてレシピ・アレンジを変えています。特に最近は SNS にも映えるカクテルとなっていて、今回はペンギン展示が有名な海響館の石橋館長がゲストということで、雪上のペンギンを表現したものとなりました。
FOODS
超水族館ナイト限定のフードメニュー。今回は以下の3種類でした。
- 戻り鰹の土佐作り
- たこの唐揚げ
- さんまの竜田揚げ
出演者紹介
◆ 中村 元 /水族館プロデューサー
成城大学卒業後、鳥羽水族館に入社。飼育係(アシカトレーナー)、企画室長などを経て新しい鳥羽水族館をプロデュースし副館長となる。2002年に独立し日本で唯一人の水族館プロデューサーとして活動開始。新江ノ島水族館、サンシャイン水族館、北の大地の水族館、マリホ水族館 …等々、基本構想の策定を含めると これまでに 10館以上の展示プロデユースを手掛けてきた。利用者起点の妥協のないマーケティングと斬新な 「水塊」 展示により圧倒的な集客増を実現する手腕は 「中村マジック」 とも称され、近年は海外からのオファーも多い。2008年より東京カルチャーカルチャーにて 『中村元の超水族館ナイト』を主宰。また、北里大学海洋生命科学部の学芸員養成課程の講師として、東京コミュニケーションアート専門学校(TCA)では名誉教育顧問として ”展示学” を講義。次世代の水族館を担う門下生を多数輩出している。2019年6月には7年ぶりの改訂版となる 『中村元の全国水族館ガイド125 』 を刊行。
◆ テリー植田(司会進行)
~東京カルチャーカルチャー・プロデューサー
008年に 「超水族館ナイト」を企画し中村さんにオファー。カルカル屈指の人気定番イベントへと進化させてきた。中村さんとの ”超水族館コンビ” も12年目に突入。実家は三輪素麺の製麺所で、夏場を中心に素麺研究家・ソーメン二郎としても活躍中。
恒例の乾杯ですが、いつもは水族館や水族館の生き物たちに乾杯をするのですが、この日はラグビーW杯の ”日本 vs サモア” が行われる日とあって、
第一部より ~ テーマトーク
1.なぜ命を展示するのか
超水族館ナイトが始まった頃から、中村さんは事ある毎に 「展示とは何か」 について語ってくれています。近年は大学や専門学校の教壇にも立ち、水族館への就職を目指す学生の皆さんに「展示学」を教えています。
中村さん
「展示とは ”見せて伝えること”。見せて伝えていなかったらそれは展示ではありません!」
博物館法などに見られる昔からの思想や概念で水族館や動物園を見た場合、それらは科学系(自然系)博物館としてカテゴライズされます。そんな分類に何の意味もないことは中村さんが以前より指摘している通り。また過去の超水族館ナイトにおいて 「水族館は単なる科学系博物館に成り下がってはいけない」 「水族館は生物科学を教えるところではない」 といった話が何度も出てきました。
私は 「博物館」 と聞くと私は 「収蔵」 という言葉を思い浮かべてしまうのですが、まさに ”コレクション” のごとく沢山の種類の生きものを集めることが ”展示” であると思い込んでいる水族館もまだまだ存在しているようです。また、飼育係の中にも、それらの生きものを良い状態で飼育できていることだけで満足してしまっている場合も…。
中村さん
「例えば、博物館に縄文土器や仏像が展示されていたとします。縄文土器も仏像も 『こんなところに連れてきて迷惑な話だ』 なんて思ったりしません。」
テリー
「モノですからね。考える頭脳がありませんし…。」
中村さん
「そう。だけど、水族館や動物園にいるのは ”生きもの” なんです。だから彼らは絶対 『こんな狭い所に閉じ込めてどういうつもりなんだ!!』 って思っているはずなんです。 『毎日エサ貰えて、病気になったら治療もしてくれるし、良い待遇じゃん!』 なんて言う人もおるんやけど、その程度のことは刑務所でもやっている。 あと 『♂ と ♀ をちゃんと入れて子供も作れるようにしているから良い』 と言う人もおるけど、じゃあ、みんな今座っているテーブルの男女5~6人でたった今から狭い場所に閉じ込められて一生過ごすことになったらどうよ? 」
テリーP
「あっ、そこのテーブルの ♂ はメッチャ濃そうですねぇ~。」
客席:(笑)
中村さん
「なっ、嫌やろ!?(笑) 生きものにしてみたらすごく迷惑な話だと思うの。そりゃストレスも溜まるさ。それでも水族館に連れてきてそこにいてもらうのは ”展示するという目的” があるからです。水族館も動物園も展示をするから生きものを飼うことを許されているんです!」
中村さんは展示プロデュースの依頼を受けた水族館に出向くと、まず飼育スタッフを集めて展示の在り方を説き、現状とのギャップを指摘(つまりダメ出し)していくそうです。当然のように飼育スタッフは中村さんに反発。「ウチは既に良い展示をしている!」と。しかし、中村さんがすかさずカウンター。
中村さん
「いい展示? 誰も水槽を見とらんやん!」
自然界から預った命、”生きる姿” を見せて伝えること、それが展示。「多くの人に水槽を見てもらえない水族館はもはや存在意義がない(中村さん)」 と手厳しい。
中村さん
「きちんと ”展示” ができないのであれば、生きものが可哀想だからそんな水族館は廃業するべきです!」
<next: 中村さんが展示したいものとは>