水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2019秋(vol.34)〜命を展示するということ〜

2.命の展示で何を伝えるか

テリーP
「命を展示するに当たって、中村さんの手法ってあるんでしょうか?」

中村
「過去の超水族館ナイトでも話したことだけれど、初めて野生の哺乳動物を見た忘れらない思い出があるんです。小学生の低学年だった頃のある日、犬を散歩に連れて行ったんです。田舎やったから散歩コースの周りは森に囲まれていました。その道を歩いていた時に犬かを何発見して歩みを止めたのね。」

犬の視線の先にいたのは1匹の野ウサギ。

中村さん
「そうしたら犬がウサギに向かってワンと吠えたんよ。そうしたらその次の瞬間、 ウサギがビヨーンってメッチャ跳んだのよ! 5メートルぐらい跳んだように感じました。実際そんなことはあり得へんので大袈裟なんやけど(笑)、でも、3跳び目ではもう森の中に消えていました。それがあまりにも衝撃的で 『ウサギって今まで自分が思っていたのと違っていた!』 って思ったんです。ほんの一瞬の出来事なのにウサギの表情まで鮮明に覚えています。いや、遠かったから表情なんて本当は見えてないはずなんやけど、でも、そう思えてしまうぐらい強く印象に残った出来事でした。」

野ウサギとの遭遇を語る中村さん

中村さんが水族館の展示を通して伝えようとしているのは、まさにその ”野ウサギを発見した時のようなリアルな体験” 。博物館に土器が展示されていても、その土器を発掘してくる体験まではできません。でも、水族館の展示あれば本物そっくりの自然の中で、そこで暮らしている生きもの達を発見する体験ができる。それが ”命を展示する” ということ 。できるだけ沢山の種類の生きものを水槽に入れて、解説板に魚の名前や種類、見分け方などを細かくビッシリ書き込んだところで、それを見てもらえなければ全く意味がない。それなら図鑑や百科事典で済む話です。


3.飼育係はフィールドへ!

中村さんがプロデュースし大ヒットさせてきた展示の数々は、中村さん自身が実際にその目で野生の姿を見て、その時に感動したありのままを水族館のお客さんに伝えようと企画設計されたものでした。例えば、例えばサンシャイン水族館の 『天空のペンギン』は、

中村さん
「海に潜ってペンギン達が泳ぐ姿を観察していたら、ペンギンのその向こう側の海がとても広くキラキラしていた。そんな光景を見せたかったのね。」

高層ビルの屋上に海のような広さを持つプールは作れない。そこで中村さんは 「空を借景するアイデア」 を思いつき、どこまでも続く海の中を表現しました。目の前に広がるビル群の上空を飛び交い、見上げればまるで空を飛んでいるかのようなケープペンギンの姿はまさに中村さんが海の中で見た光景なのだという。

また『草原のペンギン』は、ケープペンギンが本来暮らしている環境を再現したもの。こちらも中村さんやサインシャン水族館・丸山館長が、野生の本来のペンギンの姿を見ているからこそ実現した展示と言えます。

中村さんは実際に自分の目で見た感動を水族館の展示で再現している。

中村さん
「春の超水族館ナイトで円山動物園の本田さんと 『飼育係はフィールドに出なさい』 という話をしました。フィールドに出ない飼育係は失格だと。また飼育係をフィールドに出さない水族館・動物園も当然失格です。野生での本来の姿を知らずに、その生きものを伝えられるワケがありません。もし水族館がどうしても行かせてくれないのなら、是非、自分でフィールドに出てほしい。それぐらいの覚悟がなかったら飼育係なんか辞めちまえぐらいに僕は思ってます!」

それだけ ”命を展示する” ことは重く、同時に重要な役割を担っているということ。

ここで中村は門下生の一人でもある北の大地の水族館・山内創館長のフィールドワークを紹介。

中村さん
「彼は休みの日には北海道の川という川に足を運んでいます。そこで水族館から発信する情報を一生懸命に探して作っているんです。例えば、サケが遡上してくるシーズンには、その生き様を一生懸命に観察している。ボロボロになって川を上る鮭の生き様を伝えようと。サケ・マス類の名前を一生懸命に教えようとする水族館もあるみたいやけど、それ全然意味ないで! 塩漬けしたらみんな味一緒や!」

客席:(笑)

中村
「(客席を指差しながら)その辺りに座っているマニアな人たちは何種類のサケ・マス類の写真が撮れたかが重要なのかも分からんね?(笑) でも、世間一般の人にとっては ”サケがどんな生活しているのか” が分かった方が絶対に面白い。命を展示することでそれを伝えたいのね。」

中には海外に常駐スタッフを置くという素晴らしい体制を敷いている水族館もあるそうですが、「でもその水族館はそれが全く展示に反映されていない。もったいない!」と中村さん。とは言え、実際のところフィールドに出ていく意識の高い飼育係は年々増えているようで、水族館における展示が今後どのように変わっていくのか注目です。

”命の展示” に関する深いトークにお客さんも真剣に耳を傾けていました。

4.海響館を知ろう

さて、ここからは第二部の予習。この後に登場するゲストの石橋館長が勤める海響館の見所や魅力を、中村さんが水族館プロデューサー視点で写真と共に紹介してくれました。

海響館は言葉の響き通り「海峡」にある水族館。目の前には関門海峡が広がります。

関門海峡借景にした水槽。
関門海峡の早い潮流で生まれる渦も見事に再現している。

中村
「この渦を作るポンプだけで、北の大地の水族館が丸ごと作れるぐらい凄いお金かかってます!」

客席「………!!!!」

中村さん
「だからこれは見ておかないと損です! 」

そして、下関と言えば…やはり名物のフグ!

トラフグ

海響館では暖かい海から冷たい海、汽水淡水域に生息する種類まで、常時100種類以上ものフグの仲間を展示しているそうです。

中村さん
「世界中のどこを探してもトラフグを海響館ほど大きな水槽で飼っている水族館はないです。マンボウが飼えるぐらいの水槽で飼育されています。」

そして、中村さんがイチ推しなのが「ペンギン村」。ペンギンを飼育する施設としては世界最大級。飼育個体数も5種 140羽という驚きの規模。

亜南極ゾーン は 水深 6m、水量 700 t。陸上部分、水中部分ともフォークランド諸島に代表される 「亜南極圏」 の環境を再現。ここに ジェンツーペンギン、キングペンギン、イワトビペンギン、マカロニペンギン の4種のペンギン(約 70羽) と インカアジサシ が暮らしています。広さと深さを兼ね備えた巨大プールをダイナミックに泳ぎ回るその様を中村さんは 「ペンギン大編隊」 と名付けました。

亜南極の水槽(地下1F部分)
広くて深い水槽ならではの光景。南極の海そのものの躍動感!
ジェンツーペンギン。
ペンギンも泡の軌跡も美しい。
キングペンギン。
”水塊”を感じさせる存在感。

温帯ゾーン には 70羽のフンボルトペンギンが暮らす。なんとこの場所はフンボルトペンギンの特別保護区になっているそうです。(その辺りのいきさつについては第二部にて)

ペンギン村の屋上部分
(温帯ゾーン)

海獣類も充実の展示。

スナメリのバブルリング
関門海峡をバックに行われるイルカショー。ショーにはアシカの仲間も参加。

中村さん
「どうよ? 海響館にまだ行ったことない人、行きたいでしょ!? 行きたくなったでしょ!? これは、絶対に行くべきなんです! 海響館は僕のオススメ水族館ベスト3に必ず入ってくる水族館なんです!」

<next:いよいよビッグゲストの登場!>

2019/10/05