水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2023春(vol.43) ~飼育係のトレーナー~

■ 様々な個性を活かすヒント

今しがた「人を使うことほど面倒くさいことはない!」と言っ放った中村さんですが、そこは鳥羽水族館の元副館長。なんだかんだ言いながら ”人の使い方” は十分に心得ています。

中村
「実は鳥羽水族館に入社したての頃の僕は ”人との付き合い” が結構苦手やったんです。でも、水族館での ”ある経験” をキッカケに ”人の使い方” に開眼したんよ!」

ご存じの方も多いと思いますが、中村さんのキャリアのスタートはアシカトレーナーでした。大学時代は経営学科でマーケティングを学んでいた中村さんは、営業や経営のスタッフとしての入社でしたが、「将来のためにも現場を知っておく必要がある」と考えた中村さんは「最初の3年間は飼育係を職に就きたい」と志願したそうです。そしてアシカ班に配属された。

中村
「ここからの話は以前の超水族館ナイトでも話したことがあると思うんやけど、僕はアシカ班の先輩たちにはあまり歓迎されませんでした。『どうせ3年しかおらん腰掛けにわざわざ時間を割いて新人教育をしても意味がないわ」と思ったんやろね。『ショーに使えないアシカ3頭をお前に預けるからそれで遊んどれ!』って言われました。」

 

中村さんと3頭のアシカたちの
運命はいかに!?

中村さんに預けられた3頭アシカたち。1頭は鳥羽水族館で生まれたメスのカリフォルニアアシカで名前はロン。どういうわけか極度に ”輪っか” を怖がりました。

中村
「輪っかを見ただけで怯えて逃げていく。こんな状態ではアシカショーの定番である輪投げキャッチはもちろん、俊敏なアシカの見せ場である輪くぐりジャンプもできない。」

しかも、アシカ班の先輩たちは、ロンの輪っか恐怖症を治そうと、なんとプール一面に数十本もの輪っかを一斉に投げ込んで水面を埋め尽す荒治療を試みたのだとか。

中村
「先輩たちは『これなら水面に上がってくるときに嫌でも首に輪が引っ掛かって慣れるやろ』なんて言いながら眺めていたんやけど、全然水面に上がってこないんよ。『オイオイ、このままじゃ死んじゃうぞ!』と、慌てて輪っかを退けてね。」

ロンは輪っか恐怖症をさらに拗らせ、酷いトラウマ状態で中村さんのもとにやってきました。

あと2頭はミナミアフリカオットセイのサンタ(♂)とゴンタ(♀)。ちょうどその頃、カリフォルニアアシカの入手性が悪くなり、繁殖個体もあまり出回らなくなってきたことから、その代わりとしてミナミアフリカオットセイが数多く日本に輸入され、鳥羽水族館にもやってきたそうです。ところが、

中村さん
「当時は『ショーをするならアシカでないとダメ!オットセイは使えない!』と言われていました。確かにアシカとオットセイでは機敏さが全く違う。」

当時のアシカ班の中でも、高くジャンプができるアシカは重宝され、ジャンプ力がないオットセイはドンくさいヤツとして敬遠されていたそうです。

この2頭はさらに別の問題も抱えていました。サンタは鳥羽水族館に着いた当初から人の手から全く餌を食べませんでした。

中村さん
「先輩たちには『全く餌を食べない個体だからじきに死ぬ。だからお前が最期まで面倒見ろ』と言われました。」

でも、そこは中村さん。あの手この手を尽くして餌を食べさせることに成功! いざ餌を食べ始めると、とても物覚えが良く器用な子だったそうです。もう1頭のオットセイのゴンタはあまりの物覚えの悪さから ”劣等生” の烙印を押されて中村さんに預けられました。確かに物覚えは悪かったそうですが、ひとたび覚えた技は確実に何度でもこなしてくれる信頼性の高い一面もありました。

そして、なんと中村さんはアシカのロンの輪っか恐怖症も解消してしまいます。

中村
「どうやったかというと、ロンは鼻の上にモノを載せるのは大好きで、よくポールを鼻の乗せて遊んでいました。そこでポールと同じ色、同じ模様の短いホースを用意して、鼻に乗せるふりをしてクルッと首に巻いてあげたんです。不思議だったろうね、今まで怖かった輪っかが自分の側からか出てくるんよ(笑)。最初は短いホースから始めて徐々にホースを長くして繰り返していたら、ついに輪っかを怖がらなくなりました!」

中村さんはアシカ班の先輩たちが「ショーに使えない」と見限ったこの3頭を共に「アシカショーに出演させてほしい」と志願し、ショーデビューを果たします。

中村
「一番ウケたね!(ドヤ顔) 簡単な話よ。どんくさいオットセイにジャンプをさせても見栄えがしないのだからジャンプはロンには任せて、オットセイには各々得意なことをさせました。プールに落ちているボールを拾ってこさせたり、地面に落ちているボールも拾えるようにしました。両前脚で挟んでコロンと寝転がると鼻の上にくるのでそこで乗せればいいんやでって教えたら出来たんよ!」

 

身振りを交えてショーの説明をする中村さん。落ちこぼれと言われたアシカたちをショーの人気者に!

何より秀逸だったのは中村さんならではショーの演出です。中村さんがドジなトレーナーを演じてワザとボールをヘタに投げて、オットセイが「やれやれ、しょうがないなぁ」とそれを拾って助けてくれるというもの。

中村
「オレが笑われてオットセイが『エライ!』『賢い!』と褒められる内容に変えたんです』

テリー
「それは面白いですね。見ていて気持ちがいい!」

当時のアシカ班にはショーに出るための大前提となる技がありました。それは輪投げを30本連続で投げてアシカの首でキャッチさせるというもの。

中村
「しかも、輪投げをしている時に空中に最低2つは輪が浮いていなければならないという掟もあったのね。それってもはや人間の輪投げショー、手裏剣ショーやん!」

客席:(笑)

このように従来は課題が設定されていて、その課題をクリアできずないと「落ちこぼれ」として見限られていたアシカたち。でも、中村さんは「その子ができることは何か?」を見極め、「その子が出来ることだけで面白く見せるにはどうしたら良いか?」を考えるという発想の転換でショーを大ヒットに導きました。

中村
「アシカの世界では彼らは確かに落ちこぼれかも分からん。でも彼らに合わせて使う側が工夫すれば良いということに気づいてからは、オレ、人を使うのも上手くなったと思うんよ。今ではオレ、水族館業界で ”猛獣使い” って呼ばれているからな!」

ここで言う猛獣とは「扱いづらい」「面倒な奴」とレッテルを貼られ、端に追いやられているような飼育係のこと。彼らを味方に付けて、その秘めた力やアイデアをも引き出してしまう中村元さん独自の人心掌握術は、なんと海獣から学んだものでした。

 

猛獣遣いの不敵な笑顔!?

中村
「でもね、組織の規模がもっと大きくなった場合や、展示プロデュースをしている期間だけなら上手く人を扱えるけど継続的に10年20年となるとゴメンやけど自信ないなぁ。そこは第二部ゲストの海響館・立川副館長の出番や!」

テリー
「あっ、ハードル上げましたね。楽屋で立川さん苦笑いしていると思いますよ!(笑)」

 

2023/02/03