2023春(vol.43) ~飼育係のトレーナー~
2023年も『超水族館ナイト』が始まりました!
コロナ禍でも休むことなく 冬(2月頃)・夏(6月頃)・秋(10月頃)の年3回の定期開催を続けてきた本イベントですが、昨年2022年は、春開催がオミクロン株の感染拡大により延期となった影響で、夏開催の時期も大幅にズレてしまい、結果、秋開催が超水族館ナイト史上初の休演となっていました。よって、この日は待ちに待った半年ぶりの超水族館ナイト! 平日(金曜日)開催とはなりましたが、客席は中村元ファン&水族館ファンで満員御礼! コロナ禍では殆ど見られなかった首都圏以外からのお客さんや、水族館への就職を目指す若い学生さんの姿もかなり戻ってきました。
さて、通算43回目となる超水族館ナイトのテーマは、
”飼育係のトレーナー”
近年、水族館の展示論を何度も語ってくれている中村さんですが、全国各地の水族館で日々奮闘する チビッ子園館長(中村さんを慕う門下生の皆さん)に対しては、より詳しい講義を行っているそうで、中村元イズムを継承した飼育スタッフが水族館業界に育ちつつあります。が、そんな彼らを生かすも殺すも組織次第。
テリー
「管理職がダメだと会社運営がダメだ的な?」
中村
「その通り。ええ展示はええ展示係とええ組織がするもんや。逆に言うたらアカン水族館は組織運営がアカン。」
中村元イズムにインスパイアされて俄然ヤル気になったものの、上司に恵まれず身動きが取れないまま燻ぶり続けている悩める門下生もいるとかいないとか…。そんなこんなで、今回は水族館の組織論に踏み込んでいくトークとなりました。
中村
「水族館やから管理職のことを ”飼育係のトレーナー” と言うてみたワケ!」
ということで今回のこのタイトルになったそうです。
第二部のゲストには、中村さんが「展示も組織も良い水族館のモデル」と高く評価する 下関市立しものせき水族館「海響館」 の 立川利幸 副館長! 海響館と言えば3年前(vol.34/2019秋)に石橋敏章館長がゲストとして登壇し、水族館の本質に迫るアカデミックな話をしてくれました。今回はそれを現場レベルで推進してきた当事者でもある立川副館長が、生き物との付き合い方の話も交えつつ、これまで行ってきた組織的な活動について語ってくれました。
第一部より
■ 飼育係のトレーナーとは
中村さんは水族館プロデューサーとして独立する以前は、鳥羽水族館にて企画室長そして副館長を歴任してきました。そう、言うなればバリバリの管理職。特に副館長時代は、館長に準じる非常に重い仕事を数多くこなしてきたそうです。
中村
「仕事は会議中心で、議題はお金のことばっかりや。一番嫌やったのは運転資金を借りるために銀行に頭を下げに行かなくちゃいけないこと。そんなことばかりやっていると、水族館の経営自体は好調で安定していても『この先もちゃんとスタッフの給料を払っていけるのだろうか』とか、とにかく不安になる。重責が圧し掛かってきちゃってね。」
中村さんは常々「水族館はお客さんをたくさん呼ばなくちゃいけない」と力説していますが、それは第一には「展示されている生き物のため」なのですが、同時に「スタッフが安心して働けるように」という想いや責任も込められていました。
中村
「水族館の館長が普段どんな仕事をしているか知ってる? ひょっとして気が向いたときにフラッと館内に現れて気づくといなくなっている、「いいご身分だなぁ?」なんて思ってない!? 時にはお客さんだけでなく飼育係にまで 『アイツたまにしか現場の様子を見に来ないのに水槽が汚れているから掃除しろだの口うるさいヤツだなぁ』なんて陰口叩かれていたりする。違うんやって! 館長には館長の仕事があるの!」
中村さんが副館長を務めていた鳥羽水族館は私立の水族館ということもあり、社長が館長をも兼ねています。歴代の社長兼館長には銀行出身者が多いことからも非常にシビアな仕事であることが伺えます。
中村
「だから館長にはならんほうがええで!」
客席:(笑)
もう一つの事業形態として、水族館事業を展開するオーナー会社があり、その傘下に館長以下の水族館組織が設けられているケースもあります。中村さんがこれまでにプロデュースしてきた水族館はこのタイプが多いそうです。この場合の館長の仕事は経理業務負担が少し減って、そのぶん現場寄りになるとのこと。
中村
「その館長は ”飼育係のトレーナー” にならなければならないんです!」
ところで、中村さんは水族館プロデューサーとして独立する際に、一つだけ心に決めたことがあるのだそうです。それは、
中村
「絶対に人は雇わんでおこうと。自分一人でできることだけにする。だって人を使うことほど面倒くさいことはない。特に水族館の飼育係なんて変わったヤツばっかりやん!?『魚好きです!ギョギョ!』みたいな。」
テリー
「誰のモノマですか!」
客席:(笑)
中村
「ゴメンゴメン! 変なヤツという言い方はちょっと失礼やったけど、要するに個性の強い人たちです。個性的なこと自体は良いことなんやけど、水族館の飼育係の中には個性が強すぎて、魚のことは凄く勉強していて知識も豊富だけれど、組織のことや同僚のことまでは考えが至らないという人が結構いたりします。魚に餌を与えて『わぁ!食べた食べた!いい子だね~♪』なんて言いながら毎日を過ごせれば本人は満足というね。でも、水族館の飼育係はそれだけでは困るんです。いつも言っているように ”展示係” になってもらわなくちゃいけない。」
水族館のリーダー(飼育係のトレーナー) は、そんな個性的な飼育係たちを取り纏め、水族館のあるべき姿を体現できる人材(展示係)を育成していかなければなりません。