2020春(vol.35)~儚くて漂う大和の海月かな~
2.人気 No.1 のクラゲは?
中村さん
「ここで試験をしてみたいと思います。水族館で展示されることの多い4種類のクラゲをスライドにしました。この中で1番人気はどれやと思う?」
テリーP
「うーん、じゃあハナガサクラゲで!」
中村さん
「正解はみんなに聞いてみましょう。」
中村さん
「そう、実はミズクラゲが断トツの1番人気なんです。今日のお客さんの中にはクラゲマニアの人もたくさんいるし、スライドの写真を見ながら答えてもらっているので、ミズクラゲ以外にも幾らかは手が挙がったけれども、実際の水族館でお客さんの後をついて観察してみると、ほぼ全員がミズクラゲの水槽の前から動かなくなります。」
水族館には上の4種類以外にも他にも様々なクラゲが展示されています。例えば、
※これらクラゲの写真は全て中村さんが水族館にて撮影したもの
一つ一つは非常に個性的で美しいのですが、ミズクラゲの人気にはまるでかなわない。
中村さん
「言うなればこれらのクラゲは皆 “自意識高い系”。いかにも『美しい私を見てー!!』と主張しているような雰囲気なんです。存在感ありすぎるものは日本人(の世界観、美意識)には合わないんですね。それと、お客さんはクラゲそのものを見ているのではなく、ふわふわと漂うクラゲを通して水の流れや存在を感じているんよ。」
テリーP
「中村さんが何度も言っている “浮遊感” とか “水中感” ですね!」
中村さん
「そう! そして一番シンプルで存在感のないミズクラゲこそが、その浮遊感が最も伝わりやすいクラゲなんです。サインシャイン水族館に昼間行ってごらんよ。アタッシュケースを持ったサラリーマンがミズクラゲが漂うクラゲトンネルをボーッと眺めて癒やされとるよ(笑)。」
確かにクラゲを眺めていると日常の嫌なことも忘れてしまいそうです。
3.儚くて漂う大和の海月
日本の文献史上、最初に登場する生物が実は「クラゲ」なのだそうです。現存する日本最古の書物である『古事記』の冒頭、天地開闢の話にクラゲが登場します。世界が出来て最初の三柱の神様(造化三神)が出現した後、次の一文が記されています。
中村さん
「さて、日本の国を見て見てみたら(まだ出来たばかりで)水に浮いた脂みたいで、久羅下(くらげ)のように漂っていた…と書いてあるんです。凄いと思わん? まだ殆どの神様が出現していない時代です。 ”まだ何もない” という状態をクラゲの虚無な様子で例えたんや。」
クラゲの儚げで空ろな姿や淡い透明感は、それこそ国の始まりから日本人の心の写してきたと言えそうです。
日本神話に精通する中村さん、この後に登場するイザナギ・イザナミの話まで詳しく解説してくれました。日本神話の面白さを分かりやすく伝えてくれて楽しいのですが、さすがにここには書き切れないので割愛します。(汗)
浮遊感から日本神話まで話が広がりましたが、加茂水族館ではクラゲドリームシアターに代表されるように「クラゲの浮遊感が非常に良く伝わる展示を行っている。だからあれだけ多くのお客さんを魅了し続けている(中村さん)」とことでした。
加茂水族館のクラゲ展示についてもう一つ注目すべきポイントがあるそうです。
中村さん
「水族館でクラゲ展示が流行りだした頃、クラゲ水槽のバックスクリーンはブルーばかりでした。ところが加茂水族館がクラゲを本格的に展示し始めた時に、なんと背景を黒にしたんです。僕は水塊を作るときに海の広がりを見せるためにブルーが非常に大事だと常々説いてきました。人は青色に水の存在を感じ癒される。また暗い水槽は誰も見ない…と。だから黒背景は僕の考えには全く合わないものだったんです。でも、加茂水族館の黒背景のクラゲ水槽を見ていると、なぜかとても心地よく感じる。なんでやろ? そうか!背景を黒にすると浮遊感だけがもの凄く強調されるんだなと思ったんです。」
ところで、クラゲの展示は海外の水族館でも人気が高まっているようですが、日本のクラゲブームとはやや趣が異なるようです。例えば、
比較的奥行きのある水槽に高収束なLD光源で手前から奥に向かって色を変えて照明することによって、発色の異なるクラゲが同居しているように見えるという仕掛け。カラフルで中国では大好評なのだそうですが、「侘び・寂び」の世界観を持つ日本人にはドギツイものがあります。
中村さん
「もちろん日本にも派手なクラゲ展示を行っている水族館もあってそれはそれで面白いんやけど、でも、自分の力ではどこにも行けません、どこに目があるのかもわかりません、何も考えていません。それでも生きていくことができる。ふわふわ、ゆらゆら…。日本人はこの感覚がとても好きなんだと思う。」
テリーP
「なるほど。だから ”大和の海月” なんですね…。」
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