水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2023夏(vol.44)〜日本の動物園水族館に未来はあるんか?~

第一部より

■ 日本の水族館に未来はあるんか?

 

前置きが長くなりましたが
ここから本題へ!

 

テリー
「今回のテーマ『日本の動物園・水族館に未来はあるんか?』なんですが、ちょっと挑発的にも聞こえるというか…。”日本の” ってわざと付けているんでしょ?」

中村
「第2部のゲストの本田公夫さんが『是非ともつけるべきだ』というので付けました。ただ、変に喧嘩を売っていると誤解されたら嫌なのでちょっとだけ文字を小さくしたんやけど…。」

 

ホントだ(笑)

中村
「最初に言ったように、僕は日本の水族館の未来はもうできてきてるぞと思っているわけです。なぜなら、大人がそこで楽しめる、時間を費やせる場所になってきているからね。魚や海のことに特段興味がないという人たちが気軽にフラリと水族館に足を運んでくれている。それがめちゃくちゃ良い!」

先述の通り、中村さんは日本の水族館を大衆文化の拠点とすることを目指しています。

中村
「大衆文化になっていくこと、その意味は分かる? 例えば大衆スポーツってあるやん? 」

日本では野球やサッカー、ゴルフなどがその代表格。ニュースのスポーツコーナーで連日取り上げられ、家庭や学校・職場などでも、ごく日常的な会話の話題となったりします。

中村
「野球のメジャーリーグで大谷翔平選手がホームランを打つだけで嬉しいわけよ。最初は『大谷選手の顔がカワイイ!カッコイイ!』だけでファンになった人も、少しは野球そのものを理解しようとするじゃない? それと同じように、生き物のことも海のことも何も分かっていないけれど、水族館に行ってみたら『ペンギンって水中を飛んでいるんだ!初めて見た!』とかね。」

水中世界に感動したり、癒されたり、展示を通して色々な気づきや発見をする。これによってある人は生き物のことや彼らが棲む世界(自然)に興味を抱くようになり、またある人は心身をリ・クリエイトする。

中村
「それが大衆文化になっていくということ。僕は水族館も動物園も、もっと言えば美術館も博物館も、大衆文化となって根付くという使命があると思っているんよ。』

中村さんが水族館プロデューサーと独立して20有余年、水族館はブームを超えてほぼ大衆文化と呼べるところまで来ています。

中村
「でも(日本の)動物園は大衆文化ちゃうやろ。子ども文化や!」

 

■ 水族館は動物園の亜流と思われていた

今でこそ動物園を凌駕する集客力を誇る水族館ですが、40~50年ほど前は入場者数で動物園の後塵を拝していました。ゾウ・キリン・ライオン・トラ・ゴリラ・カバ・サイといった人気動物が一堂に集まっている動物園は、第二次ベビーブームの子どもたちを連れた家族で大いに賑わっていました。対照的に水族館では閑古鳥が鳴いている状態。それもそのはずで、当時の水族館には人気動物が不在でした。また、施設的にも結露や水漏れでが床がピチャピチャと濡れて不衛生であったり。水槽からの不快なニオイが館内に充満していたり、照明も暗くまるでお化け屋敷のような雰囲気さえありました。

そんな中、『わくわく動物ランド(TBS)』という動物に関するクイズ番組が始まります。

中村
「これがとんでもない視聴率を叩き出す人気番組になってね、珍しい動物をたくさん紹介してくれました。それによって動物ブームが起こったんです。」

それまで殆どの人が知らなかったであろうエリマキトカゲやウーパールーパーが一夜にして国民的アイドルになってしまうほどの影響力。

テリー
「人気になりすぎてミラージュのCMでエリマキトカゲが走ってましたよね(笑)」

 

動物ブームの時代を語る

 

中村さんがこのチャンスを逃すはずがありません。当時、鳥羽水族館の企画室長だった中村さんは、番組にラッコやジュゴンの映像を提供。特にラッコは日本中に空前の大ブームを巻き起こりました。

中村
「ついに水族館界にもラッコという待望のスターが誕生したぞ! 少なくとも鳥羽水族館だけは動物園に肩を並べたんじゃないか!? そう思ったんです。 」

それを検証すべく、中村さんは鳥羽水族館を訪れた子どもたちにアンケートを実施しました。

”きょうはどのいきものにあいにきたんですか?”

中村
「ラッコが1位になると思うやん? なんと…、1位はカメ。2位がペンギンで3位がサメやったんよ…。」

テリー
「ええっ、ラッコはどこにいったんですか?」

中村元
「ああ、そうか! 入口でアンケートを取ったからや! 出口でアンケートを取ればラッコが1位になるに違いない!…と思って出口でアンケートをやり直しました。結果は…1位カメは変わらなかった!」

客席:(笑)

中村
「2位にカエルが入ってペンギンが3位に落ちました。やっぱりラッコもジュゴンもアシカも出てこない。なんやこれは!? って真剣に悩んだんです。」

アンケート結果を分析し、子どもたちとも対話を繰り返し、中村さんは1つの結論に辿り着きました。

中村
「カメもカエルもペンギンも子どもたちに馴染みのあるキャラクターでした。絵本によく登場するし、子ども向けのアップリケや玩具などにもなっているんです。結局、子どもたちは、絵本などで見て知ってはいるけれど、まだ会ったことがない彼らに会いたかったし、会えて嬉しかったんです。」

子どもが絵本などに登場したゾウやキリンを見て「ゾウさんの鼻は本当に長いの?」「キリンさんの首は本当に長いの?」と言い出したら、親は『じゃあ、会いに行こうね!』と動物園に行って連れて行ってあげるもの。

中村
「子どもは『本当におった!』ということを確認をしたいんだけなんですね。でも、それは子どもにとって凄く大事なこと。」

どんなにテレビや写真で見ていたとしても、自分のその目で確認することには到底かないません。その意味では動物園は子どもたちとって非常に優れた教養施設と言えます。

中村元
「だから動物園には家族でも行くし、学校の遠足でも行くんです。その動物園のゾウやキリンの ”水族館版” がカメやカエルやペンギンだったというわけよ。残念なことにカメもカエルもペンギンも実は動物園にもおるんよね。」

客席:(笑)

中村
「動物園にウミガメはおらんけど、代わりにデッカイなリクガメがいたりするしなぁ…。」

テリー
「そう考えると水族館はだいぶ弱いですね。」

中村
「弱い!弱い! …で、その時に思ったんです。子どもで勝負したらアカンわ!って。」

 

満員の客席はテンポの良い
中村さんの話トークに
頷いたり笑ったりの連続です。

 

2023/06/17