水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2023夏(vol.44)〜日本の動物園水族館に未来はあるんか?~

■ 似て非なる日本と欧米の『種の保存』

中村さんはこの『超水族館ナイト』において、度々、日本動物園水族館協会(JAZA)のが掲げる 「4つの役割」 について不適切なのではないかと再三指摘しています。

中村
「僕は4つ全てがアカンと思うんやけど、特に『種の保存』が気に入らないんです。」

< 種の保存> 
動物園や水族館では、珍しい生き物を見ることができます。でも、珍しいということは、動物の数が少なくなっていることでもあるのです。生き物は、個々の動物園や水族館のものではなく、私たちみんなの財産です。動物園や水族館は、地球上の野生動物を守って、次の世代に伝えていく責任があると考えています(希少動物の保護)。
動物園や水族館は、数が少なくなり絶滅しそうな生き物たちに、生息地の外でも生きて行ける場を与える、現代の箱舟の役割も果たしているのです。

出典:JAZA「4つの活動」より

中村
「動物たちのノアの箱舟になるみたいなことが書かれている。つまり、野生ではもう生きていけないから動物園・水族館でそれを育てるんだと言っているのね。いやいや、そんなことのためにやったら動物園・水族館なんて要らんやろうって! すごく腹が立ってるんです。本田さんはどう思われますか? 全世界的にそんなこと言っているんですか?」

本田さんによると、欧米の動物園・水族館でも同様に ”4つの機能” が謳われてはいるそうです。JAZAの「4つの役割」は、欧米の動物園・水族館から出てきた ”4つの機能” を真似て掲げられたものであるようです。但し、その中身、実態は全くの別物とのこと。

本田
「だから僕は以前から日本のそれはただのお題目だと言っていますね。」

 

日本の動物園が言う「種の保存」はピントがズレている!本田さんが鋭く切り込む。

 

欧米の動物園が掲げる『種の保存』は、絶滅が危惧される動物を動物園で繁殖させ、最終的に野生に返すことを目的とした啓発活動から始まったそうです。

本田
「そのアイコン的なプロジェクトがアラビアオリックスです。ほぼ絶滅寸前だった野生個体を捕まえて、アリゾナ州のフェニックス動物園などで繁殖させました。そこで増えた個体を野生に戻し定着に成功したんですね。」

ただ、野生復帰させるためには莫大な費用がかかります。また、野生で生きていくためのトレーニングを十分に行った上で野に放ってはいますが、どうしても一度は人に飼育された動物。命を落とす個体も多いそうです。

本田
「それは倫理的に許されるのかという議論もあって、近年では自然環境を守って野生の個体を守っていくのが最も合理的だと言われています。そのために必要な研究を動物園で行っているのが現状ですね。」

時代時代で内容は変化しているものの、欧米の動物園の「種の保存」は一貫して野生動物を守るためのものとなっています。ところが、

本田
「日本の動物園・水族館では展示動物を自給することが『種の保存』であると捻じ曲げて解釈されている。それが凄く気持ち悪くて、時に怒りすら覚えますね。」

中村
「同感です! 僕もそれに凄く怒っているんです! それって『種の保存』ではなく『動物園の保存』やん! 絶対におかしい!」

 

意見が完全一致!
トークはフルスロットル!

 

かつては希少動物を生息地で捕獲して動物園・水族館に売ること生業とする人たちがいました。しかし、野生動物保護の観点から現在は捕獲や取引が制限され、動物の入手が困難になってきています。日本の動物園では最後の1頭が死亡して、かつて動物園に行けば当たり前に見られたゾウやキリンなどの展示が終了となるケースも近年相次いでいます。

本田
「日本の動物園はそんな状況になって慌ててブリーディングローン(繁殖を目的に動物の貸出や移動を行う制度)を始めたりする。30年ぐらい前だったと思いますが、日本の動物園からゴリラがいなくなるかもしれないと騒がれて繁殖のためのプロジェクトが組まれたことがあったんですね。その時、たった1頭モモタロウという男の子が生まれただけで『これでしばらくは大丈夫』と言わんばかりにその後のプロジェクトは有耶無耶になってしまいました。」

欧米の動物園で行われているブリーディングローンは集団遺伝学に基づき野生個体の遺伝子をできるだけ残そうと計画的且つ継続的に行われているそうです。欧米と日本の『種の保存』は似て非なるものと言えます。

 

■ 日本の動物園に未来はあるんか?

ところで本田さんは日本の水族館についてはどのように考えているのでしょうか?

本田
「僕の個人的な感想になりますが、日本の水族館はもの凄くレベルが高いと思います。」

中村
「おっ…!」

本田
「なのに動物園はレベルが低い。どうしてこんなことになっているのか、その理由を考えているんですけど、明確な答えには至っていません。一つの仮説ですが、日本には純粋な動物学者が殆どいないからかもしれませんね。」

確かに日本には純粋に「動物学」を学べる学校は非常に少ないです。

本田
「動物園の飼育スタッフは農学系の大学で動物資源学・畜産学・獣医学などを学んできた人が多く、野生動物に関する専門知識が十分には備わっていない。対して、日本は水産大国で水族館の飼育スタッフには水産学系の人たちが非常に多い。水産学は基本的には野生生物を相手にしているので、基礎的な生物分類学なども修めている強みがあるんですね。ゆえに水族館は専門的な知識に由来した運営が可能でレベルが高いのだと思います。」

第一部は『水族館には未来ある』という結論で終わって、今、本田さんにも「日本の水族館は大丈夫」と太鼓判を押していただきました。

中村
「それで、第二部も『いやいや、色々考えたら動物園にもちゃんと未来があるぞ!』という結論になるのかなと思ってたんやけど、ここまでの話を聞いていると『動物園には未来がない!』って言われてるように思えてならないんですが、実際どうなんですか?」

本田
「正直に言うと、日本の動物園の未来はかなり危ういと思います。』

中村
「うわぁ…。」

…とは言え、日本の動物園に希望が全くないわけではありません。近年、欧米の動物園をモデルに展示を創ろうとする動物園も現れ始めるなど変化の兆しが見えます。また、以前よりも(野生)動物学を学べる学校も増え、野生動物に対する獣医学も注目されるようになってきています。

本田
「だから、あとは ”皆さん” です!」

 

動物園の未来はみんなの手に!

 

繰り返しになりますが日本の動物園の多くは公立です。

本田
「日本の動物園のスタッフにも志のある人はたくさんいることは知っています。でも現場から変えようとすると自治体に楯突く形となって、それはある種のクーデターになってしまう。指定管理者の場合は降ろされかねません。行政が予算を決めるときに動物園の優先度は高くはなく、どんどん予算を減らされてしまっているのが現状です。」

動物園を本当に残したいと思うのであれば、動物園の利用者が声を上げていくことが近道とのこと。

本田
「日本の動物園の未来を変える力は僕たち1人ひとりにあると思うので、是非、皆さんで一緒に日本の動物園の明るい未来を創りましょう!」

中村
「僕も今日から心入れ替えて、水族館だけでなく動物園の未来をのためにも戦うわ!」

本田
「もちろん水族館の未来も創りましょう!」

客席:(大拍手)

 


おわりに

少し前に、とある大きな動物園に行きました。ゾウも高齢のアジアゾウが1頭のみ。なんとキリンの展示場は空っぽでした。動物園で真っ先にイメージするのが「ゾウさん」と「キリンさん」だと思うのですが、時代の流れで希少動物の動物の入手・調達が困難になってきており、動物園は非常に難しい時代を迎えていると感じました。ただ、危機は変革のチャンスでもあり、これからの動物園は、真の意味での「種の保存」に取り組んだり、社会教育施設として ”大衆化” していくなど、まだまだやれることは沢山あるはず! 講演中、中村さんが挙手でアンケートを行ったのですが、超水族館ナイトのお客さんは(常連の皆さんも含めて)動物園も好きでよく通っている人が多いことが分かりました。好きな水族館と動物園の未来をみんなで考えることができた非常に意義深い超水族館ナイトになりました。

 

(文&写真:須釜浩介)

 


おまけ

終演後に行われた打ち上げの様子です。

※参加費2000円/飲み放題(軽食付き)

 

 

 

プレゼント争奪
ジャンケン大会が始まります!
この盛り上がりです。
景品の中にはお宝も!?

 

2023/06/17