水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2018秋(vol.31)〜水族館でアトムの正義を語ろう〜

■ イルカは ”善” で サメは ”悪” !?

動物を捕りに行ったり、原産地の調査に行ったり、しばしば海外を飛び回っていた中村さんですが、ある時、同行していた水中カメラマンに誘われてバハマの ドルフィンダイビング に参加したそうです。

中村さん
「ドルフィンダイビングの受付は真っ白な綺麗な建物の中で行われていて、案内してくれたスタッフも全員白人で金髪の美女が多かったね。潜る前に港でガイダンスのビデオを見せられるのだけれど、その内容はイルカがいかに優しくてフレンドリーかということを凄く強調したものでした。いざダイビングに出かけるとイルカが非常に良く馴らしてあって、凄く良い写真を撮らせてくれるんです。」

ところで、その島では シャークダイビング も行われていたそうで、中村さんはそちらにも参加…。

中村さん
「シャークダイビングはドルフィンダイビングとは全く雰囲気が違っていて、受付の建物は真っ黒。スタッフは全員黒人でゴツイ体格をした人ばかりでした。やはり最初に港でガイダンスのビデオを見せれますが、その内容は『サメは危険だ!殺されるかもしれない!』と恐怖心をひたすら煽るもの。そして、いざダイビングに出かけると鎖帷子のような鎧を身に纏ったガイドさんが手に太い棍棒をもってダイビング客の前に立ちはだかり、接近してきたサメを棍棒で殴って追い払うのね。」

でも、これらは全て ”演出” でした。中村さんはガイドさんが振り回している棍棒の先に餌を出す蓋がついていることに気づいてしまいました。サメは人を襲おうと接近してきたのではなく、単に餌を食べに近づいてきただけという…。考えてみれば水中で太い棍棒を振り回しても水の抵抗が大きすぎてサメにダメージなんて与えられるわけがありません。撃退にしたように見せているだけでした。

そして中村さんがもう一つ気づいたこと。それはドルフィンダイビングとシャークダイビングは実は同じ会社が運営していたということ。

中村さん
「その時に思ったんです。コイツらはこうやって善玉と悪玉を作り上げているんだな…と。そして、これは日本人の感覚とは全く違うと実感しました。」

凶暴そうなルックスをしているからと言うだけでサメを悪者扱いするのは 「人間のあまりにも勝手な正義」 だと中村さん 。

テリーP
「人間でも見た目は怖いけれど、話してみたら凄く優しい人っていますからねぇ…。」

下の写真はシロワニという大型のサメですが、見ての通り相当な強面です。でも実はサメの中でも非常に従順でおとなしい性格の魚で水族館でもよく飼育されています。人が見かけによらないように、サメも見かけによらないのです。

 

シロワニ(しながわ水族館)
撮影は中村さん

 

■ 絶対正義も絶対悪もないという考え方

善玉 悪玉 を決めつけてしまう考え方は 「一神教 に基づく思考に因るところが大きいのではないか」 と中村さん。一神教は唯一絶対で全知全能の神がいて ”正義” が決まっています。対して、日本は古来より自然崇拝(アニミズム)の国で、あらゆるものに神が宿るという 八百万信仰 が広く生活に根付いています(つまり多神教であるということ)。太陽の神様がいなければ農作物は育ちません。でも日照りばかりでは農作物は枯れてしまいます。そこで雨の神様の出番ですが、これも雨が降りすぎてしまうと農作物は腐り、川が氾濫して洪水が発生してしまいます。このように ”同じ一つの事でも良い面と悪い面がある” という考え方が日本人の根底にあるのです。

中村さん
「だから日本の神様は誰も正義を語りません。なぜなら絶対正義もなければ絶対悪もないからです!」

 

中村さんが以前にも熱く語った「日本 vs 欧米」の神様の話がここで登場。

 

2018/10/21