2018秋(vol.31)〜水族館でアトムの正義を語ろう〜
■ オオカミは悪者か?
皆さんはオオカミという動物にどのようなイメージをもっているでしょうか? 悪の象徴的な印象を持っている方も少なくないことでしょう。 でも、 ”オオカミ” の語源は ”大神” であると言われ、日本では古来より神様として崇められる存在でした。
イギリスの昔話「3匹の子豚」や、イソップ物語、グリム童話などではオオカミが悪者として描かれており、日本が近代化する過程でそれらが伝わり広まるにつれ、日本でも オオカミ=悪 のイメージが浸透していったものと思われます。
ところで、欧米ではなぜオオカミは悪者なのでしょう?
中村さん
「古代、地中海東岸はレバノン杉という大木の森が広がっていたんです。前にヨーロッパの神話をしたことあるよね? 古代メソポタミアでは町を建設するために大量の木を必要としていたのだけれど、メソポタミア地方には殆ど木は生えていなかった。そこでメソポタミアの王・ギルガメッシュはレバノン杉を求めて森に入り、森の守り神であるフンババを倒し、どんどん木を伐採していったんです。もともとそこに住んでいた森の原住民は住処を奪われ北へ北へ追いやられていきました。」
森を追われた先住民達は、狩猟など従来行ってきた営みができなくなってしまう、生きていくために森を開拓して移り住んできた文明人たちの農作物や家畜を奪うようになりました。
中村さん
「その森の先住民達がオオカミの毛皮をよく着ていたんです。だからオオカミが悪い奴と言われるようになっていったんです。」
ただ、文明サイドから見ればギルガメッシュは英雄でオオカミ(の毛皮を身に纏った部族)は略奪を働く悪の手先ということになるのですが、逆の立場から見れば森を奪った文明人の方がよっぽど悪であるとも言えます。これもまさに ”立場変われば” …です。
多神教で絶対正義も絶対悪もない思想を持つはずの日本人ですが、最近はやたらに正義面をして自分の考えを押し付けたり、自分の価値観だけで相手を執拗に批判したりするケースが目立ちます。ある一つことを正義と信じ、それ以外を悪と決めつけてまった者同士が争いを始めてしまうと、本当に終わりのない悲劇が延々と繰り返されることにもなりかねません。
中村さん
「でも日本人には 鉄腕アトムの心 があるので本当なら踏み留まれるはず。だからもっと 鉄腕アトムの正義に気づくことができる水族館 を作っていかなくちゃならない!」
テリーP
「すごく良く分かりました。…でも、今日のテーマのサメはどこへ行ってしまったんでしょう?」
中村さん
「どこへ行ったんやろね? 実はオオカミの魚版がサメなんや!(ニヤリ)」
■ サメは悪者か?
答えは書くまでもありませんが、前述のオオカミ同様にサメにも「狂暴な悪者」のイメージがつきまといます。でも、これも「正義 vs 悪」の二極化した思想が生んだ妄想であり、日本人の「八百万の神々」の発想にそぐわないもの。おそらく映画「ジョーズ」などに見られるような欧米のサメに対する思想が徐々に浸透し、今日のようなサメのイメージが作られてしまったのでしょう。
中村さん
「日本の神話ではサメも神様の遣いなんです。『海彦・山彦の物語』に登場する豊玉姫 はサメが姿を変えた女神やし、『因幡の白兎』にも神聖な生き物としてサメが出てきます。」
「凶暴で悪い奴」とのレッテルを貼られてしまったそんなサメ達を愛してやまない人がいます。それはもちろん第二部のゲストである シャークジャーナリスト・沼口麻子さん 。いよいよ沼口さんの登場です!