水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2025秋(vol.49)~ぼくらはギリギリ生きている!〜

  

■ ライオンの顔が目の前に!

1986年にテレビ番組の撮影のためトモ子さんはケニアを訪れました。『野生のエルザ』の作者のジョイ・アダムスンの夫であるジョージ・アダムソンの取材が目的でした。『野生のエルザ』は、ケニアで動物保護官をしていたアダムソン夫妻が、射殺された人食いライオンの残された子ライオンを連れて帰り、「エルザ」と名づけて育てたあげたライオンと人間との絆を記録したノンフィクション作品で、トモ子さんはジョージの案内のもと動物保護区にてメスばかり7頭のライオンの群れに辿り着きました。

松島
「私から見て、ちょうど皆さんがいらしゃるその辺りに野生のライオンたちがいるんです。」

   

この距離感である(近い!)

  

松島:
「ライオンたちは野生なんだけれど、あまり食べるものがないのでジョージが餌やりをしていて、一頭一頭名前を呼びながらラクダのぶつ切り肉を与えるのね。コレッタ、ボルディ…って。あっ、このボルディというヤツが後で私を噛むヤツなんだけど…。」

客席:(笑)

松島:
「その肉をライオンが手でバシッと叩き落として貪りつくように食べるのね。手がもの凄く大きいんですよ! 私は目の前でみるライオンって凄い迫力があるなぁと思いながら、その様子をじっと見ていました。」

テリー:
「怖くないんですか?」

松島:
「私は動物が大好きだから全然怖くなくて、野生の本物のライオンを見られたことが、もう嬉しくて嬉しくてたまらなかった。」

餌を食べ終えて満腹になったライオンたちはゴロ寝を始めます。トモ子さんは一番近くで寝ていた小柄なライオンの前にしゃがみこんで「かわいい」と言いながらその様子を眺めていたそうです。全てのライオンが寝ていると思いきや、ふと背後に気配を感じて振り返ると1頭の大きなライオン(ボルディ)がトモ子さんに向かって近づいてきていました。タイミングが悪いことに、ジョージは定時の無線連絡を行っている最中で、ライオンからもトモ子さんからも完全に目を離していた時でした。

松島:
「私の方にトトトッと歩いてきたと思ったら、もうライオンの大きな顔が目の前にあった。まるでMGMの映画のロゴのように視界の全てが『ライオーン!』と言う感じでした。私はうわっ!と思ったんだけど、直後に頭にもの凄く強い痛みが走って、体が強い力で宙に浮いて、もうそこから(意識を失って)分からなくなっちゃった。私はオレンジ色のサファリルックを着ていたんですけど、後で現場にいたスタッフに聞いたら『目の前を赤いものがビューンと飛んで行った』と言うんです。それは私がライオンに跳ね上げられて大きな弧を描きながら飛んで行ったということなんだけれど…。そして、私は7頭の群れの真ん中でひっくり返っていて、ライオンたちが『なんだろう、これは?』とじゃれていたみたいです。じゃれるといってもライオンですよ、 私はもうボロボロ…。」

 

目の前に「ライオーン!」
襲われた瞬間を赤裸々にを語る。

トモ子さんが着ていたサファリルックはネコパンチならぬライオンパンチでズタズタに引き裂かれ、まるで昆布のような状態に。噛まれて更に引っ掛かれたらしく頭には深く大きな傷。

松島:
「たぶん私が失神していたから助かったのだと思います。」

中村:
「確かに逃げようとして暴れたりしたら余計にライオンが面白がって『なんだコイツ』となって、もっっと酷くやられちゃっていたかもしれないですよね。」

松島:
「あとは事前にたくさん食べてもらっていたから良かったというか。」

実際、近づいてきたライオンに悪意は感じなかったそうです。獲物として襲ったわけではなく、強くじゃれついた結果が不運にもこのような事態になってしまったように思われます。

中村:
「そもそもライオンの前に座るのが良くないですよね。 あの時だって…(苦笑)」

”あの時” とは、中村さんとトモ子さんが初めて顔を合わせた日のこと。

中村:
「トモ子さんがアシカのトレーナー体験をするというテレビ番組の企画で鳥羽水族館に来てくれて、その時に初めて会いました。まだトモ子さんがライオンに噛まれる前の話です。」

当時、アシカトレーナーをしていた中村さんがトモ子さんに「アシカに近づかないでください」「触らないでください」など注意事項を伝えようとしたところ、

中村:
「ふと見たらもうアシカの前に座っていて『あら、かわいい。こんにちは、初めまして』なんて言いいながら撫でようとしているのよ。ちょちょちょちょっと待ったー!ってもう大慌て! あのアシカはホントにメッチャ噛むヤツだったんですよ!?(苦笑)」

松島:
「そうなんですってね。でも私は動物が大好きだから、自分がこんなに好きなんだから相手も私もことが好きなはずだって思うのね。そういう根拠のない自信があるの。」

実際、その噛み癖があるというアシカはトモ子さんのことを噛まなかったそうです。これには中村さんもビックリ!(いや、トモ子さんが大胆過ぎて一番ビックリしていたのは当のアシカかも!?)  動物が大好きなトモ子さんらしいエピソードです。ライオンについても大怪我を負わされましたが「それでも私はライオンが好き!」と語るほどトモ子さんは動物愛に溢れています。

  

「トモ子さんには初対面からヒヤヒヤハラハラさせられっぱなし!」と中村さん

  

ライオンに襲われ重傷を負ったトモ子さんはフライングドクターでナイロビホスピタルへ搬送され緊急の手術を受けました。ライオンは他の野生動物の肉や内臓などを食べているため歯も爪も雑菌だらけ。後で化膿する可能性を考慮して、頭の傷は処置はしたものの縫合は行わずに傷口を開けたまま経過を見ることに。またパックリと割れた足や背中に負った多数のスクラッチは医療用ホチキスで閉じるという満身創痍の状態。最低10日ほどの入院が必要との診断でしたが、トモ子さんはなんと3日で病院を抜け出し、再び撮影現場へ戻ったそうです。

テリー:
「よく戻ろうと思いましたね。」

松島:
「だって、まだ全然カメラを回していなかったんですよ。これで帰国したら私はただアフリカにライオンに噛まれに行っただけになっちゃう。だから撮影を始めたんです。」

中村:
「さすがの女優魂!」

松島:
「いや、私だってこの後に ”ヒョウの部” があると分かっていたら日本に帰りましたよ!(苦笑) でも、そんなこと分からないじゃない? ヒョウがいるということは誰も教えてくれなかったので全く知らなかったの。」

仮にヒョウの存在を知っていたとしても、野生動物への飽くなき好奇心と女優としての高いプロ意識で、トモ子さんはきっと撮影現場に戻ったことでしょう。しかし、それが結果として第二の事故に繋がってしまいます。

  

■ ヒョウの部 ~ 奇跡の1ミリで奇跡の生還 ~

撮影を始めて6日目、現地スタッフに呼ばれてテントの外へ出たトモ子さんのすぐ目の前に1頭のヒョウがうずくまっていました。

松島:
「最初はヒョウだとは分からなかったんです。でも直後に目と目が合ってしまって…。ヒョウの瞳孔がキュッと絞られていくのが見えたんです。」

動物好きのトモ子さんもこの時ばかりは「襲われる!危ない!」と直感で思ったそうです。しかし、もう次の瞬間にはヒョウはトモ子さんに飛び掛かり首に噛みついていました。的確に喉を狙っているので完全に獲物を仕留めるアクションでした。

松島:
「ガリガリガリ…って自分の骨が砕ける音が聞こえました。『死んだ…!』と思いました。」

  

ヒョウに首を砕かれ視界が真っ白に…。

     

ヒョウはトモ子さんを咥えたままスタッフたちが食事をしていたテントの中へ侵入。驚いたスタッフたちが総出でトモ子さんを救出し、瀕死の重傷を負ったトモ子さんは再び病院へ。ライオンに襲われた時よりも遥かに重篤な状況だったそうです。

松島:
第四頸椎粉砕骨折でした。」

ヒトをはじめ哺乳類の殆どの種で頸椎の数は7個あるのですが、

松島:
「私はその4番目の頸椎がヒョウに齧り取られて無くて、3番目と5番目でなんとか繋いでいるのね。」

中村:
「第四(だいよん)頸椎ですからね! ”らいおん” 頸椎じゃないですよ!」

確かに空耳でそう聞こえます。(笑)

松島:
「永さんにも『ふぅ~ん、らいおん頸椎と言うのがあるんだね!?」なんて言われました。」

客席:(笑)

奇跡的に一命を取り留めたトモ子さんは、帰国後、暫くは入院生活を余儀なくされたものの、後遺症もなく芸能生活に復帰。

松島:
「あと1ミリ噛まれた場所がズレていたら死んでいたか、全身麻痺になっていたと言われました。だから今考えてもどうして私が生きているのか、なぜ神さまが私を助けてくださったのか分からないんです。あの時、本当に『死んだ…!』と思ったんです。それが後遺症もなく生きているって…なんなんでしょうね(苦笑)」

驚くべきことに、こんな生きるか死ぬかの重大な事故に遭ったにも関わらず、トモ子さんはその後もテレビ番組の企画等でアフリカを訪問しています。

松島:
「アフリカって西があって東があって中央があって、南の方は…お金持ちが行くところかな? でも、それぞれに違う表情がある。もしも機会があれば是非アフリカに行ってみてください。人生観、世界観がガラリと変わると思いますよ。」

  

2025/02/08