2019夏(vol.33)~水族館ガイドで動物園が暴れる日~
第1部より
1.水族展示と水塊展示の魅力が凝縮された一冊!
「全館訪問取材・中村元の全国水族館ガイド 125」 は、時代の流れで出版元は都度変わっていますが、2012年以来7年ぶりの4度目の改訂版(つまり通算5冊目)。
中村さんの水族館ガイドが最初に世に出たのは2005年。当時は出版業界がまだまだ元気で取材費が出たそうです。
中村さん
「200万円出してくれって言ったら 150万円出してくれました。結局 250万ぐらいかかったので結構な額の持ち出しになったんやけど、それでもやって凄く良かったと思っています。…と言うのも JAZA (日本動物園水族館協会)に入っていないものも含める当時ちょうど100館あって、それを1年間で回ることができた。全ての水族館の展示を一番新しい状態で知ることができ、その後の水族館プロデュースの仕事がとてもやりやすくなったんです。」
でも、執筆した記事に一部納得が行かない部分もあった…。
中村さん
「一応、顔を隠してカメラマンという体で取材に行ったのだけれど、取材費を貰っている関係で事前に取材許可をもらわなきゃいけなくて、無料入館もさせてもらっていた。だからあまり好き勝手なことは書けませんでした。(その反省を踏まえて)その後は完全自腹でやっている。 だから今回の全国水族館ガイドも相当正直に書いてあります!」
原稿の段階では実はもっと辛口だったそうですが、校正刷りが回ってきた時に「さすがにこれはアカンか!?(中村さん)」と、大人の対応で少しソフトな表現に差し替えたりしたらしい…!?
中村さん
「『○○の展示は残念だ』とバッサリ書いていたところを『見たい人もいるだろう』ぐらいの表現に直してあります(ドヤ顔)」
テリーP
「十分突き放しているじゃないですか!」
客席:(笑)
マニアな人は行間を深読みしてみると、中村さんの本音が透けて見えて、より水族館ガイドを楽しめるのではないでしょうか?(笑)
2.水族館ガイドの見どころ&読みどころ
水族館ガイドを開くと、各水族館の展示に対して 「水塊度」 「ショー」 「海獣度」 「海水生物」 「淡水生物」 の5項目の採点があり、また、 「海獣パフォーマンス」 や 「個性的な展示」 、 「魅力的な水塊」 …等々、テーマ別にランキング化したコラムも実用的。
でも、中村さんの全国水族館ガイドの最大の強みは先ほども触れたように 中村さん自身が全館を訪問取材をしていること でしょう。
書店に行くと中村さんが書いたもの以外にも水族館のガイド本が色々と並んでいたりしますが、それらの多くは各水族館にアンケートを送り、回答とともに写真の提供を受け、それを取り纏めただけのものが多いようです。その結果、出版社も編集者も違うのに、内容が横並びのガイド本が次々と生まれてしまいます。
中村さん
「アンケートなんて自分達に都合の良いことしか書いこないやろ! 僕のガイド本は全部この目で見た上で正直に書いてある。僕が 『この水族館はココが面白い』と書いたものが、その水族館自身がPRしたいものとは異なっていることも結構多いと思うよ!?」
でも、それこそが生きた情報。正に「これを読めばアナタも水族館通!」と言える水族館ガイドに仕上がっています。
そして、特筆すべきは写真のクオリティ。特に水塊写真はため息が出るほど美しく、誌面からも水中感・浮遊感が伝わってきます。全て中村さんがこの水族館ガイドのために撮り下ろしたもの。そのためにカメラとレンズも新調したという力の入れようです。
中村さん
「な! 俺の写真、まあまあええやろ!?」
テリーP
「またドヤ顔で…。」
客席:(笑)
中村さん
「僕が写真を撮る時は 『水槽をいかに水中らしく撮るか』 ということの他に、その生物に対して自分が思ったことをどう伝えるかを意識して撮っています。展示とは見せて伝えること。写真も同じです。」
過去の水族館ナイトで、中村さんは 「優れた画家は表現力よりも先に理解力を発揮する」という話をしてくれたことがあります。絵画は ”もの” に対する画家自身の ”理解” を伝えるために描くもの。筆遣いや技法よりもまず先に「理解」がなければならない…と。水族館ガイドに載っている写真には中村さん自身の「生物や水塊に対する理解」が表現されています。本文だけでなく、一つ一つの写真にも注目です。
テリーP
「そうなると中村さんの写真展もやりたいですねぇ…」
客席:(大拍手)
東急ハンズや東急百貨店の催事プロデュースをも手掛けるテリーP。近い将来、「中村元 水塊写真展」が実現するでしょうか!?
3.動物園が水族館化!?
冒頭で触れたように中村さんの水族館ガイドにはいくつかの動物園が登場しています。
中村さん
「ここ最近、動物園の水族館化が凄い!」
動物園の水族館化 の先駆けとなったのは 旭山動物園。旭山動物園と言えば「行動展示」で知られていますが、
中村さん
「『行動展示』という言葉は実によく考えたなぁと思う。でも、行動展示をしたからお客さんが増えたんじゃないんです。水族館化させたからお客さんが増えたんです! 」
旭山動物園の展示で真っ先に思い浮かべるもの。 ホッキョクグマ、ペンギン、アザラシ…。
中村さん
「ほら! 全部水族館やん! もちろん行動展示にはオランウータンやチンパンジーもあるけれど、メディアに出てくるのは圧倒的に水族館的な部分が多い。そして、今、大ヒットしているのがカバや!」
では、中村さん自慢の写真で旭山動物園の水槽展示を見ていきます。
水深3mの巨大プールの中をカバの巨体が軽やかに跳ね回る様は観る者に圧倒的な水中感&浮遊感を感じさせるもの。
中村さん
「このアザラシの展示には本当に 『やられた!』と思いました。自分が悔しかったです。思いつかなかったし、もし思いついたとしてもようせんわ。これを作ったところで本当に潜ってここを通ってくれるかどうか分らんもん!」
動物園や水族館は(特に公立の施設ほど)前例主義が強いそうで、全く新しい展示を作るのはなかなか難しいそうです。その展示が「本当にうまくいくのか?」と問われたところで、相手が生き物である以上「絶対」はありえない。GOサインを取り付けるには困難が伴います。ホッキョクグマがダイブする水槽展示は国内外で実績・前例があるため作りやすかったと考えられますが、アザラシの円柱水槽や足のつかない深さのカバプールは旭山動物園が初の試み。「よく作ったなぁ~」と中村さん。その意味でも旭山動物園は動物園でありながら最先端の水族館展示を行っていると言えそうです。
さて、動物園の水族館化をリードしてきた旭山動物園ですが、ここに来て超強力なライバルが出現! それが 札幌市円山動物園 です。
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