水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2019夏(vol.33)~水族館ガイドで動物園が暴れる日~

第2部より 

後半は 札幌市円山動物園 の飼育展示係・本田直也さん を迎えてのゲストトーク! 本田さん目当てで「初めて超水族館ナイトに来ました!」というお客さんも多く、大きな拍手と歓声に迎えられていました。

本田直也さん
(札幌市円山動物園・飼育展示係
爬虫類館担当・学芸員)

超水族館ナイトの 33 回の歴史の中で動物園からのゲストは 2016年・春(超水族館ナイト vol.23)の 牧慎一郎さん(天王寺動物園・園長)以来2人目。牧さんはエリート官僚から公募で園長になった異色の経歴の持ち主で、外様ならではの「お客さん目線に立った取り組み」で天王寺動物園の改革を推進中。対して本田さんはずっと飼育現場で奮闘してきた方。そして今、動物園の展示を大きく変えていこうとしています。今年2月に円山動物園で行われたトークイベントで中村さんと初対談。展示に関する考え方が同じであることから中村さんが即ラブコール。今回の超水族館ナイトへの出演となりました。

中村さんも本田さんも「伝わらなければ展示ではない!」と語る。水族館と動物園の違いこそあれ根底にあるポリシーは全く同じ。

本田さんは 鷹匠(※) でもあるのですが、

※NPO法人日本放鷹協会認定 諏訪流鷹匠

本田さん
「毎年ケガをした鳥が何羽も動物園に運ばれてきますが、特に猛禽類はアスリートなので一度飼育下に置かれてしまうと筋力が弱って空も飛べないし、獲物も捕らえられなくなってしまいます。そんな状態で傷が癒えたからと野生に放すのはただの遺棄でしかありません。トレーニングを行い、再び野生で生きていけるかどうかを見極める。そのリハビリテーターとしての技術は鷹匠でしか身に着けられないからです。」

この話を聞いただけでも本田さんがタダモノではないことがお分かり頂けると思います。そんな熱意に満ちた本田さんが動物園の展示についてたっぷりと語ってくれました。


6.水族館の役割と日本の現状

本田さん
「動物園はどのような目的を持っているのか? 貴重な動物を沢山飼育しているのは決して可愛いからとか珍しいからといった理由ではありません。そんな理由で希少な動物たちを飼うワケにはいきません。彼らは(種を代表して)自然界から来てくれた言わば大使なんですね。彼らが何を伝えてくれているのかと言うと、彼らの生息地のことなどです。だから動物園は展示を通して来園者の方々にそれを伝えてなくてはなりません。」

しかし、日本の動物園の多くはコンクリートに鉄格子といったような飼育環境。どうしても狭い場所に拘束している印象が否めません。そこにメッセージは何もないし、メッセージを込めたところで何も伝えられない。

中村さん
「当たり前やね。生息地の事を考えましょうとか言う以前に 『まずこの動物を可哀想だから何とかしてあげて』ってなるよね?」

本田さん
「おっしゃる通り。僕は日本の動物園の飼育環境の現状を ”公開型畜舎” と呼んでいます。」

日本の動物園には数多の課題がある

本田さん
「展示を通して伝えるのが動物園の役割と言いましたが、飼育と展示は実は全く別の概念なんです。展示には展示の専門家が必要だし、飼育には飼育の専門家が必要です。でも日本には動物園には専門家が飼育係しかいないのが現状です。」

その点、諸外国の特にヨーロッパの動物園は非常に進んでいて、運営組織の中に展示をデザインする部門があり、そこにはあらゆる分野の専門家が集められているという。

本田さん
「日本は日本庭園という素晴らしい景観を作る技術を持った国なのですが、動物園の展示には一切落とし込まれていないのが残念です。デザインという概念が抜け落ちているんですね。」

謂わば水族館における中村さんのような専門家が日本の動物園にはいない。下のスライド写真は本田さんが「嫌い」という日本の動物園の一風景…。

本田さん
「右下は僕がディスっている花壇です。原産地の植生なんて全く考慮していないただのお花畑。お母さんが自宅のお庭で作るならこれでも良いのですが…。それと左上。日本人がやりがちなのですが、隙間があればすぐ桜を植えてしまう。」

中村さん
「そう言えば サンシャインの草原のペンギンの所にも桜が置かれていた。あれ、やめてほしかったなぁ~。」

多くの動物園で普通に見かける風景。でも ”動物園の使命” に立ち返れば植栽の一つ一つから考え直す必要がある。

7.植物視点で始める動物福祉

近年、動物福祉 という言葉をよく耳にするようになりました。

本田さん
「世界的にも動物福祉は動物園の根幹となっています。だから絶対にクリアしなきゃいけない。動物福祉をクリアする一番簡単な方法は何だと思いますか? 動物を飼うのを止めることなんです。」

中村さん
「絶対そうよね。そうなんやけど…。」

本田さん
「はい。そうなんだけれどもそれでは動物園として使命が果たせない。使命を持ってやっている以上は高いレベルで動物福祉の基準をクリアしていく必要があります。」

福祉レベルの高い飼育環境の実現のために、本田さんが最も大事にしているのが ”植物視点” でのアプローチ。

本田さん
「例えば、カバは非常に強い動物でどんな環境で飼っても耐えることができてしまう。だから視点をカバに合わせてしまうと、もの凄い劣悪な環境ができあがってしまいます。でも、カバが暮らしている地域のイネ科の植物に視点を合わせて、それらが自生できるような環境(熱・光・土壌・雨・空気の流れ)を整えてあげれば、福祉レベルの高い素晴らしい飼育環境になります。要は一番弱いものに基準を合わせてあげるというワケです。」

また、同時に植生を含む生態系を理解し、それを展示に反映することができれば、動物園の役割である 「来園者にその動物の生息地のリアルを伝える」 の助けにもなります。

どうしても気候が合わず目的の植物が育たない場合もありますが、その場合も近縁種で代替するなどして 可能な限り生息地の環境に近づけるのだという。その為に本田さんは自宅の庭で自生種から園芸種まで約 450種類の植物を育て、植物の個性の理解に努めているそうです。

本田さん家の庭の一部を紹介。円山動物園の展示に活用することも多いとか。

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2019/06/08