2024夏(vol.47)~生き残る水族館・厳しい水族館~
第1部より
前半はテーマートークです。
テリー
「はい、改めて今回のテーマ『生き残る水族館・厳しい水族館』についてですが…。」
中村
「うん。まぁ、僕が関わっている水族館はだいたい生き残る水族館や! 単純に言うたら『中村元という凄い水族館プロデューサーを使え!』というのが生き残る方法なんやけどな!(ドヤ顔)」
テリー
「ほらまた!いきなりそれ…!?(苦笑)」
客席(笑)
実際、中村さんの20有余年に亘る実績がそれを証明しています。
中村
「それも一つの方法ってことや(笑)。でも、僕が関わっていない水族館でも、例えば、以前ゲストに前館長(村上龍男さん/現・名誉館長)と現館長(奥泉和也さん)が来てくれた ”かもすい(鶴岡市立加茂水族館)” なんかは、生き残るための色々なことをしてきたわけです。だから生き残れた。」
老朽化の目立つ加茂水族館の薄暗い館内には閑古鳥が鳴いていました。廃業寸前まで追い詰められ、それでも諦めずにあの手この手で生き残る道を探る中で、目の前の海の中を漂っていた ”クラゲ” に希望の光を見い出し、クラゲの展示に特化したことで入館者が増加に転じ、奇跡的な復活を果たしました。そしてクラゲドリーム館が完成し、今や『世界一のクラゲ水族館』として大人気の水族館となっています。
中村
「かもすいは山形県の観光ポスターや観光ガイドにも必ず載っているからね。鶴岡市だけでなく山形県全体の誇りとなっているのね。このように地方の水族館にとって、その地域の誇りとなれるかどうかは凄く大事なんです。」
そして、なんといっても中村さんの愛弟子(筆頭門下生)が館長として日々奮闘している ”たけすい(蒲郡市竹島水族館)” です!
中村
「たけすいは小林龍二館長自ら『日本一しょぼい水族館』と自虐しとるからね(笑)。でも、やっていることは全然しょぼくない! 立派や! だから生き残ってるんよ!」
古くて汚くてお金もない東海地方の小さな水族館。そんな ”ショボスイ” であっても、たけすいスタッフたちの飽くなき手作り努力が原動力となって、年間14万人まで落ち込んでいた来館者数を47万人まで増やすという驚異のV字回復を達成。やはり地域の誇りとして市民に愛され、日本全国にファンを持つ超人気水族館となっています。
テリー
「ドラマにもなりましたからねぇ。」
中村
「おかげさまで、たけすいはこの4月に第1期リニューアルオープン(展示入替えと改装)することができました。そして、現在は隣に増築を行っていて、秋に第2期グランドオープンすることになっています。それでな、僕も初めてたけすいから(展示プロデュースの)契約料を貰ったんよ!」
テリー
「あっ、そうか! 今までボランティアでアドバイスしてあげていたんですよね?」
中村
「ボランティアどころか俺が館長にうな重を奢りながらアドバイスしていたからな!」
テリー
「館長のエサ代がかかっていた!」
客席(笑)
中村
「まぁ、可愛い門下生やからなぁ(笑)。ショボスイらしく(額面は)ささやかやったけどね、でも初めてちゃんと契約料を頂きました!嬉しいなぁ。」
門下生の活躍に目を細める中村さんでした。ちなみに2024年12月14日(土)に竹島水族館にて増築リニューアル記念して 『中村元の超たけすいナイト』が開催予定 となっています。
中村
「こんなふうに一生懸命頑張っている水族館にはやっぱり生き残ってほしいんよ!」
ただ闇雲に頑張ってもなかなか思い描く結果には繋がりません。水族館の本質と使命を理解し、正しい考え方で水族館を創っていく必要があります。
■ うまくいかない水族館の根本的な課題とは
中村
「今日は特に地方の、主として公立の水族館について話をしようと思います。」
私立の水族館は会社として利益を出し続ける必要があるため、長期的且つ安定的な集客を目指して当たり前に企業努力を行います。どうしても集客がうまく行かない時はコンサルティングを受けるのも一つの手段。ビルの高層階に所在し課題だらけであったサンシャイン水族館は、それらのブレイクスルーのために中村さんに展示プロデュースを依頼し、圧倒的な集客を実現しました。
中村
「私立の水族館はなんやかんやで一生懸命にお客さんを増やそうと頑張るわけです。」
しかし、公立水族館の中には「行政の施設だから潰れることはないだろう」といった考えが蔓延し、集客にあまりにも無頓着な場合が見受けられるとのこと。
中村
「彼らはこう主張します。『お客さんの数じゃないんだ! 良い展示をしているかどうかが大事なんだ!』ってね。特に『教育的な展示、子どもの教育が大事なんだ!』と言い張るのよ。以前に何度も説明しているけど、水族館に行きたがるのは大人なんです。動物園の場合は子どもが、それも小さな子どもが行きたがるところなんです。子どもたちは絵本などで見たゾウさんやキリンさんの実物に会いたいんですね。『ゾウさんは本当に大きくて鼻が長いの?』、『キリンさんは本当に背が高くて首は本当に長いの?』 、それを自分の目で確かめたいんです。だから子どもは動物園に行きたがるし、親は子どもを動物園に連れていってあげます。」
しかし、水族館には子どもが「会いたい!」と思うような生き物が動物園に比べて非常に少ないと言えます。
中村
「親に『〇〇という魚に会いたいから水族館に連れて行って!』なんてせがむ子どもは、まずおらんのとちゃう? (幼少期の)さかなクンがどうだったかは分からんけど(笑)」
結局、子どもの理科教育を謳う水族館は、肝心の子ども(親子連れ)すら満足に呼べていないのが現実ではないでしょうか。
テリー
「ただでさえ少子化の時代なのにねぇ…。」
更に言えば、子ども向け作られた水族館では大人を呼ぶことも難しい。
中村
「大人のためのモノというのは子どものためのモノとは全く違う作り方をしていなくちゃいけないからね。だから一生懸命に子どもに理科教育をしようとしている水族館は、実は世の中に対して本当にちょっとの役しか立っていないのよ。今日テレビのニュースを見ていたら、少子化の影響で日本全国で小・中学校の統廃合が進んで、なんと毎年400校以上その数が減っているんやって! 義務教育の学校ですらドンドンなくなっているのに、子どもの教育を謳う水族館なんて要らんやろ! そこにお金をかけるよりも肝心の小・中学校の方をなんとかしてやってくれと思うのが本筋ちゃうか?」
テリー
「時代がそうなりますよねぇ…。」
近年、地方財政が厳しさを増す中で「効率化」や「適正化」の名のもとに、老朽化した公共施設や利用率が低い公共施設が各地で続々と廃止になっています。
中村
「もはや『公立の水族館だからなくならない』なんて時代ではないんです! お客さんの利用が少ない水族館は無用な施設なんだということを自覚しなくちゃあかん。」
実際に竹島水族館は来館者が最も落ち込んでいた時期に、蒲郡市議会で「税金の無駄遣いではないか?」との指摘が相次ぎ、廃館の検討がなされていました。その前段階として市は水族館の運営を民間委託する指定管理者制度を採用。いつ ”Xデー” が訪れてもおかしくない状況でした。
中村
「たけすいは小林館長が頑張ったおかげで潰されずに済んだけれど、そんなギリギリな状況の水族館も現実にあるわけです。お客さんが全然来なくなってしまっている地方の公立水族館がやるべきことは、行政のせいにするのではなく、まず自分たちでお客さんを一人でも多く呼ぶ努力をしなくちゃいけない!」
「予算がない」、「環境が悪い」と嘆いても何も始まりません。加茂水族館も竹島水族館も施設は古くて狭いまま「お金もない」、「人気もない」、「目玉となる生物もいない」という ”ないないづくし” のドン底の状態からアイデアと努力でお客さんを呼び戻した結果として現在があります。もしも数多の制約の中でも来館者を増やしていくことができれば、
中村
「今度は逆に『現状でこんなに頑張れるなら新しく建て替えたらもっと凄いことになるのではないか!?』と行政側に大きな期待を持ってもらえるかもしれない。そこが一番大事なところなんです。」