水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2024夏(vol.47)~生き残る水族館・厳しい水族館~

 

では、実例を見ていきましょう。

 

CASE1 | 蒲郡市竹島水族館

廃館危機から奇跡のV字回復を遂げたのは、面白すぎてついつい読んでしまう手書き解説などに代表されるスタッフのアイデアと生き物愛に溢れた手作り努力が実を結んだものですが、もう一つ大きな要素として「深海生物の展示」が挙げられます。蒲郡は深海漁業が盛んで、愛知県内に4隻しかない深海魚を獲る漁船の全てが蒲郡市に所属しています。そんな所以から、たけすいでは深海生物の展示に力を入れており、その展示数は全国でもトップクラス。全国的にも珍しい深海生物のタッチングプール「さわりんプール」では、なんと超貴重なタカアシガニにも触れることができます。また、市内の漁業関係者と協力して毎年「がまごおり深海魚まつり」を開催するなど ”深海魚のまち” を大いに盛り上げています。

中村
「これによって水族館という媒体を通して蒲郡の漁業が情報として発信されていくんです。」

たけすいと言えば、アイディアあふれるお土産も大人気。

 

例えば、オオグソクムシを使った
「超グソクムシ煎餅」

深海生物オオグソクムシを原料の一部に使用した煎餅ですが、漁師だけでなく地元の加工業や製菓会社、印刷・パッケージ会社なども巻き込んで実現した商品で、町全体の活性化にも繋げています。前述した秋に予定されている第2期リニューアル(増築)も、地元企業のバックアップを得て民間資金を活用する形で実現したもの。まさに水族館がまちづくりの拠点となっている好例といって良いでしょう。

 

CASE2|おんねゆ温泉「北の大地の水族館」 – 山の水族館

ご存じ中村さんが超ビンボー予算でプロデュースした北海道の水族館。リニューアル前(旧・山の水族館)は年間来館者が2万人というガラガラの状態でした。

中村
「せいぜい地元の幼稚園や小学校から遠足に来るぐらいで、さっき話したような ”子ども理科教育のための水族館” でした。それをガラリと変えていったわけです。」

同館が所在する北見市留辺蘂町は冬は日本有数の寒さが厳しい地域。あまりの寒さに転出が続き、過疎化が進んでいました。

中村
「水族館をリニューアルするにあたって、地元の人たちに『この土地は北海道の中でも最高の場所なんだ!』と思ってもらうようなことしなくちゃいけない。そのためには全国から『どうしても行きたい』と思ってもらえる展示にしようと考えました。まぁ、場所が場所なので『行きたい』と思ってもなかなか行けへん人が多いと思うけどな。でも、そうすることで水族館という媒体を通して、北見市の情報が、温根湯温泉の情報が全国に世界に発信されていくわけです。」

中村さんは発想の転換で、冬の厳しすぎる寒さを敢えて町の自慢しようと考え、冬には凍り付いた川面の下で逞しく生きる魚たちの様子を観察できるという世界初且つ世界唯一の「凍る川の水槽」を開発。さらに地元の温泉と冷泉をほどよくミックスして飼育していた魚たちが美しく大きく成長することから「魔法のような効果のある温泉水だ」として ”魔法の温泉水” と名付けてPR(実際、温根湯温泉は日本屈指の泉質を誇る「美白の湯」であることが分かっています)。この他、日本初の「滝つぼ水槽」や巨大天然イトウの大水槽など、地域の特性を活かした展示を行い、水族館を軸として地域ぐるみで温泉街の再生と観光活性化につなげています。

 

世界唯一の凍る川の水槽。
町の人が嫌っていた冬の寒さが
一転して町の大自慢に!

CASE3 | 市立しものせき水族館「海響館」

まちづくりの拠点として機能している最たる好例が下関の海響館ではないでしょうか。入館するとガラス越しに関門海峡大橋を借景にした水槽(関門潮流水槽の上部)が現れます。まるで関門海峡と一体化したかのような水槽の中には関門海峡特有の潮流をも再現。先に進むとフグの展示コーナーへ。下関はフグの集積地として有名で、トラフグの取扱量は世界一。当然のようにフグの展示に力を入れています(展示種数は世界一)

中村
「驚いたのはトラフグがメチャ立派な水槽で展示されているんよ!フグ料理屋の前にある水槽でよく見かけるあのトラフグにあんなデッカイ水槽使うってマジかよ!?と。」

 

海響館には下関の全てが
ギュッと凝縮されている。

 

さて、突然ですがここで問題です。
下関の ”市の魚” はもちろん「フグ(※)」ですが、

中村
「では、下関市の ”市の動物””市の鳥” は何だと思う?」

正解はクジラペンギンでした。下関は近代捕鯨発祥の地であり、南氷洋捕鯨の基地としての役割を果たしてきた歴史があります。

中村
「だから世界動物園水族館協会(WAZA)が何と言おうと市の歴史と文化を知ってもらうために鯨類の展示やイルカショーは止めないと言っています。」

下関が商業捕鯨の基地として栄えていた頃、捕鯨船の船員が南極大陸からペンギンを連れ帰っていたそうです。

中村
「(捕鯨船から寄贈を受けて)日本で初めてコウテイペンギンを展示したのも旧・下関水族館なんよ。」

海響館では5種のペンギンに会える日本最大級のペンギン展示施設「ペンギン村」を2010年に開設していますが、これもペンギンとの関わりが強い下関ならでは。このように海響館は下関の魅力と文化、歴史の全てが詰まった展示が行われています。

テリー
「完全に巨大メディアですね。」

中村
「そう、巨大メディア! だから市も水族館にドンドン投資を行っているのね。」

 

■ 第一部まとめ

全くお客さんが来なくなってしまった地方の水族館が立て直しに成功すれば、中村さんが掲げる「水族館の大衆文化化」がその地域でも進んでいくことになり、人に社会に良い影響を与えることが可能になります。言うほど簡単ではないことは承知していますが、ドン底から這い上がった加茂水族館や竹島水族館の現在の勢いを見るにつけ、地方の水族館が何も手を打たないまま自然消滅してしまうのはあまりににもったいないし、大きな損失と感じます。従来の「動物園の水中版」ではなく、これらの時代に求められる役割を果たしながら地方の水族館が盛り上がってくれたら水族館ファンとしても嬉しく思います。現状、厳しい水族館は沢山あると思いますが「秘めた爆発力」に期待したいところです。

 


 

ここで第一部が終了し、20分ほどの休憩を挟んで第二部へ。

その休憩時間に第二部のゲストである赤目滝水族館・朝田光佑館長の密着ドキュメンタリー(東海テレビのNEWS ONEで放送)がスクリーンで流されました(YouTubeで見られます

 

赤目滝水族館・朝田館長の
密着ドキュメンタリーを見ながら
第二部の開演を待つ…。

 

中村
「この東海テレビの放送を見ていたら、赤目滝水族館のオープンの時に先頭で入っていった人たちの顔ぶれが、この超水族館ナイトにいつも先頭で入ってくる人たちの顔ぶれと全く一緒でビックリしたわ!なんやコレ!って」

客席(爆笑)

 

おおよそこの人たちです(笑)
(挙手アンケートで赤目滝水族館を
訪問済みの人が手を上げています)

   

2024/06/08