2024秋(vol.48)~動物園水族館の使命〜
■ 動物園・水族館は堂々と使命を語れ
言うまでもなく、動物園・水族館は野生生物の保全の手助けにならなくてはなりません。水族館における「疑似体験」について紹介しましたが、
中村
「それが本物の自然体験に近ければ近いほど、野生の状態への想いは強くなるはずです。展示を体験してくれた全員が…というのは難しいかもしれない。でも、その中の何人かがそう思ってくれたならば、社会や地球を変えていくことができるなと思っているのね。」
テリー
「それが使命なんですね。」

近年、水族館に対して「イルカを飼うな!ショーをさせるな!」と主張する人たちが増えており、また動物園に対してもビラ配りが行われるなど反対運動が活発化しています。
中村
「これからもっともっと増えてくると思うよ。でもね、僕は彼らのような動物解放戦線の人たちの意見に8割9割共感してしまうんです。」
動物園・水族館側と動物解放戦線の人たちは一見対立しているように見えますが、実は「野生生物たちを大切に守っていきたい」という同じ志を持っています。中村さんが彼らの想いに共感するのも至極当然です。中村さんは共感した上で、水族館の展示を通して、生き物とその生息環境を大切に思う人を増やし、野生生物と地球環境の保全に繋げていく使命を果たそうとしているということ。手段が異なるだけで目指す未来は全く同じです。
中村
「『水族館でイルカを飼うな』と主張している人も、元を辿れば水族館でイルカを見て好きになったのが始まりだったりします。そういう人たちを育てたり増やしていくのも水族館の大事な使命なんです。『野生生物に少しでも害のあるようなことを人類がしないようにするためにはどうしたら良いか?」を真剣に考えてくれる人たちが増えているのだから、それは水族館にとっても歓迎すべきこと。水族館がやっていることが正しかったから、ほら動物解放を望む人たちが増えているでしょ? 僕はそう思っているんです。世の中の皆が皆、野生生物のことを大事に考えれくれて、地球の明るい未来が見えるようになったら、もう動物園も水族館も要らんよ。」
テリー
「究極はそういうことですよね。」
中村
「でも現状そうはなっていないから動物園も水族館も必要であって、我々はそれを推し進めていく使命があると思っているのね。」
アメリカの動物園や水族館で長年にわたって展示デザインを担当されてきた本田公夫さん(第44回/2023夏 ゲスト)は、『動物園・水族館は必要悪である』と語っています。ならば、動物園・水族館は ”使命” をもっともっと突き詰めて、それを堂々主張できるところまで昇華させていかなければなりません。
中村
「だから動物園・水族館が反対派の人たちから逃げ回っているようでは絶対にダメなんです!」
■ 飼育係ではなく展示係として
博物館法及び社会教育法により、水族館は社会教育のための施設であるとされています。社会教育とは、主に青少年及び成人を対象に、学校教育とは別に(つまり理科教育ではなく)実生活に即した教養や知識を高めることを目的とする学びのこと。青少年とは中学生以上を指しますが、一括りにもう「大人」と言っていいでしょう
中村
「その大人たちに水族館が提供するのは教育ではなく ”教養” なんです。先ほどの『深海世界に行った』という感覚(疑似体験)から得られるのも知識ではなく教養なんです。或いは、水族館に行って『あの魚って食べられるんだ!』というのも教養だし、さらに『我々は命をいただいて生きている』という日本人にとって大事な教養も得られます。そういった教養が沢山積み重なって、日本人全体の教養が高まっていたら、さっきニュースでやっていたサンマの大不漁なんて起こっていないと思うんです。回転寿司チェーンのCMで『本マグロの大トロが100円から!』なんてやっていたけど、そんなことしていたらアカンて! 教養が足りないから世界中の海からクロマグロがいなくなってしまうんです。」
社会教育法の基本に則って活動している水族館は、集客力に優れ、観覧率や観覧時間も増え、命や地球の自然環境について考えるキッカケを大人に与えてくるもの。水族館には社会を変える方法が多数あって、それを適切に選択し、より質の高い、より伝わりやすいものに展示を変えていくことで、水族館は使命を果たすことができると中村さんは言います。
中村
「お客さんが来ない水族館はあるべきじゃないんです! 古いタイプの学芸員に多いんやけど『お客さんが来ることよりも良い展示をしているかどうかが大事なんだ』って言うんです。お客さんに見てもらえていない時点で悪い展示に決まってるやん! 何も伝えられない、何の影響も与えられないのだから。幸いなことに、これも超水族館ナイトのおかげなんやけど、僕の門下生が全国の水族館に増えてきていててね。」
もちろん、門下生とまでいかなくても、この超水族館ナイトに足を運んで中村元イズムを学んだ水族館スタッフや、大学や専門学校で中村さんの展示論を講義を受けて水族館へ就職した人たちもいることでしょう。
中村
「そんな彼らが単なる飼育係ではなく ”展示係” となって、一生懸命に水族館の使命を果たそうとしてくれている。だから『水族館もこの世の中も、これからどんどん変わっていくで!』と思ってる。」

中村元 門下生への信頼の証
テリー
「超水族館ナイトを長く続けている間に、水族館の飼育スタッフもずいぶん若返ったんじゃないですか?」
中村
「ひと頃、新規スタッフの採用が停滞していた時期があったけど、最近また若返り始めたね。まぁ、辞めていく人も多いしなぁ…。」
水族館に就職したものの直ぐに辞めてしまう人が多いという話は以前の超水族館ナイト(第43回/2023春)でも触れましたが、水族館への就職理由が「魚が好きだから」だけでは長続きしないそうです。やはり大事なのは中村さんが何度も語っている『命を展示する覚悟』を持てるかどうか。
中村
「特に海獣トレーナーになった子たちは割と直ぐ辞めていく傾向があってね、僕が想像するに自分のイルカ、自分のアシカだと勘違いした子から辞めていくんじゃないかなぁ。海獣トレーナーが『ウチの子』とか言い出したらもうダメよ。」
テリー
「ペットみたいに思っちゃうんですね。」
中村
「お客さんはそれで良いんです。僕は一般の方々に水族館を楽しむ方法として『自分の子を見つけなさい』とよく言っているのね。近所に水族館があるなら年間パスポートを買って、毎日その子暮らしを見ていたら、いっぱい教養が得られるよ。その子が妊娠したら『良かったね』と喜んであげて、今度は出産まで一生懸命心配したり…。お客さんはそうやって自由に水族館を利用してくれて構わない。でも展示して伝える側がその気持ちになってしまったらアカン。だから、これからまだまだ人材もちゃんと育てていかないとなぁと思ってる。」
テリー
「それが中村さんの使命ですね。」
中村
「今日も客席に学生さんたちがいっぱい来てくれているけど、今の話、分かった? そういうことなんやで!」

以上、第一部は水族館の話がメインとなりましたが、実は中村さんの門下生には動物園所属の方も2名いるそうで、
中村
「動物園はなかなか変わっていかないって、よく嘆いているけどなぁ…(苦笑)」
休憩を挟んで第二部では、その動物園にスポットを当てていきます。 ”動物園の使命” とはいかに!?