水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2024春(vol.46)~命の輝く水族館〜

■ できることからはじめよう

「命を輝せる」なんて言うと、大そうなことをしなければならないように感じて身構えてしまうかもしれません。水槽を作り変えるとなると膨大な時間と費用もかかります。でも比較的簡単に変えられるものあるとのこと。中村さんが例に挙げたのはアシカショーでした。

中村
「どの水族館でショーを見てもお立ち台みたいなのが用意されている。”高い台” なんて呼ばれていますが、階段が付いていてアシカがそこを上っていく。最上段まで上ったところで輪投げやボール投げが始まります。」

アシカショーの定番中の定番であり、水族館でアシカショーを見たことがある人なら容易にそのシーンが想像できるでしょう。

中村
「アシカが階段を上っていくのを見て、お客さんは『アシカって階段を上れるんだ!!よっぽど練習したのかな!?』なんて驚くんだけど、いやいや、彼らの本当の力はそんなモンじゃないんです。 野生ではもの凄い岩山を軽々と登っていく。特にオタリアは凄くって、ほぼ垂直な断崖絶壁すら登っていくからね! 彼らの棲む南米の特に西側の海岸線なんかは崖になっているところが殆どで、ヒレアシ達はそこで繁殖をします。崖の上までは捕食動物(シャチ)が来ないからね。」

そもそも潮位の干満差が5メートルほどあるため、子どものアシカが波にさらわれないためには、それ以上の高さのある岩場の上で子育てをする必要があります。

中村
「5メートルと言うとこのカルカルの吹き抜けの天井ぐらいの高さよ? 海に出るときは飛び込めばええかも分からんけど、海から戻ってきた時はその高さまで登らなくちゃあかん。波の勢いを利用して断崖絶壁に飛びついて前脚の力で張り付くのね。そして、後ろ脚と顎も使って上まで登っていく。メチャ凄いと思わん? それをお客さんに見せたれよって思うんや。」

 

オタリアの驚異の身体能力を
身振り手振りで再現する中村さん。

テリー
「階段を上ってからの輪投げなんてアシカにっては退屈でしょうがないでしょうね。」

中村
「だと思うよ。というか、そもそも野生で輪投げなんてしてへんからな! あと、アシカショーではアシカが水陸両用であること強調したりするんやど、野生のアシカは人間がすぐ転んでしまうようなゴロ石だらけの地面や、すぐ足を取られてしまうような砂地の上でも平気でバンバン走って移動できるんよ。だったら石コロでも敷いてトレーナーと反復横跳び競争でもした方が面白いんちゃうけ? そういったことをした方がずっと命が輝くはず。」

ショーであれば水槽もプールも関係なしにすぐに変えていくことが可能。

中村
「絶壁の岩だけで擬岩屋さんに作ってもらえばいいだけの話やんか。その気になれば自分たちでもモルタルで作れるよ。自分たちからもっと変わっていかなきゃあかんと思う。」

崖・岩場と言えばペンギンも然り。イワトビペンギンが険しい岩場をその名のごとく両足ジャンプで移動することは多少知られていますが、日本の動物園・水族館で多く見られるマゼランペンギンやフンボルトペンギンも同様に何十メートルという岩山の上に営巣し、ゴツゴツとした長く険しい岩場を二足歩行で往復します。道中、つまずいたり、転んだり…です。

中村
「観察していると何羽かはゴロゴロゴロッて凄い崖をまくれ落ちていくからね。でも何事もなかったように平気な顔で海に向かって行きます。凄いやん? その姿をお客さんに見せるべきよね。。」

本来野生にいるべき命をわざわざ閉じ込めてまで展示を行う以上は、本当の姿、命の輝きを見せて伝える責任が伴います。。

中村
「水族館はそのことをもっと真剣に考えるべきなんです。そして、僕は同時にお客さんにもそういった考え方を是非持ってもらたらええなと思っています。」

先ほど中村さんから「マス媒体が社会の興味の変え、その結果として水族館の展示の在り方も時代々々で変わってきた」という説明がありましたが、今やSNS全盛の時代。水族館が大衆文化化したということは、水族館に興味も知識も考え方もバラバラな人たちが来館するということでもあり、その中には、(生き物に関係なく)水中が派手な色で照明されている光景を「SNS映えする」と好む人や、(活発に動いている生き物よりも覇気なくじっとしている生き物の方が「写真に撮ってSNS投稿しやすい」と歓迎する人もいることでしょう。

中村
「そんな声までお客さんの意見として取り込んで新しい水族館を作り始めるから命が輝かない水族館や展示がドンドン出来てしまうんです。お客様は神様やないで! まず閉じ込めてる命のことを考えるべきなんです。不適切な展示を行っている水族館には、お客さんがもっと声を上げて気づかせてあげるべきやと思うんです。それがユーザーの心得というか、自分たちで自分たちが求めてる水族館を作りあげていくことにもなるからね。」

超水族館ナイトから声をあげて ”命が輝く水族館”を作っていけたら素敵なことだと思います。

 

不適切な展示には
「不適切にもほどがある!」と。

 

そして、水族館を作る側、展示を作る側に必要なのはカスタマーズ志向。即ちカスタマーに共感し、カスタマーが言語化出来ていない想いを展示に落とし込むこと。

中村さん
「これまで『カスタマーズ起点で考えろ』という話を何度もしきているけど、お客さんの言ってることをそのままやっても意味がないんです。お客さんが求めているもののその先を捉えて、貴方の求めているのものは本当はコレなんでしょうと提示して『あらまぁ!』と言わせたら勝ちなんです。そうやって展示を作っていかないとダメになっていくで、これからは!」

ここで第一部が終了。

  

2024/02/24