水族館プロデューサー 中村 元水族館プロデューサー 中村 元

イベントレポート

2024春(vol.46)~命の輝く水族館〜

■ 『命が輝いている』とは?

近年、動物園・水族館の界隈で「動物福祉」「エンリッチメント」をという言葉を頻りに耳にするようになりました。水族館で生き物を飼育・展示する上で大事な取り組みの一つであることは中村さんも認めていますが、一方で、水族館の本質の中で正しく行われなかった場合、却って命の輝きを失わせる結果にもなりかねない諸刃の剣であるとも指摘しています。

中村
「動物福祉と言うと『生き物が安心して平和に過ごせるのが良い』みたいなことがよく言われます。これは以前にも話をしたことがあるけど、動物園や水族館のペンギンの展示場で、お客さんが鏡で光を反射させるとペンギンがその光を一生懸命に追いかけたりするやん? それを見ていた飼育スタッフが『エンリッチメント的に可哀想なことをするな! 動物虐待だから絶対にしちゃいけない!』と怒ったわけです。いやいや、それは違うんちゃうかって!」

野生のペンギンの多くは海に出て採食を行います。小魚を追いかけて何度も捕食に失敗しながら獲物を捕らえます。一方で、水族館で飼育されているペンギンの殆どは決まった時間になると陸地で餌が貰える。確かに安心安全で平和かもしれませんが、これを果たしてエンリッチメントと呼んで良いのかどうか。

中村
「水中で魚を追いかけたり探したりする必要がなく、陸上で一日の大半をボーッとして過ごすペンギンは平和というより退屈地獄よね。鏡の光を夢中で追いかけているペンギンとどっちがストレスを貯めていると思う? 動物虐待はそっちやろ言いたくなるよね。むしろペンギン展示場に周りに鏡を吊り下げておいて、お客さんに『昼の運動させてあげてください』ってやった方がええんちゃうけ? 実はある水族館ではそういった観点からペンギン展示場にミラーボールみたいなものを付けようという構想があったんです。基本計画で終わってしまって実現はしませんでしたけど。」

  

まさかのペンギンにミラーボール案は奇想天外だけれど理にかなっている。完成形が見たかった。

ペンギンの展示には関してはもう一つ大きな課題があります。それは日本人の多くがペンギンは(水中で捕ってきた魚を)陸上で食べていると誤解していること。

中村
「ある水族館のアンケートにこんな書かれていました。ペンギンが水中で餌の吐き戻しをして、それを周囲を泳いでいたペンギンが奪い合いをしたらしいのね。そうしたらそれを見ていたお客さんから『見ていてとっても汚かった。ああいうのを見せないように陸上で正しく餌を与えてもらわないと困る!』って苦情が来たんです。まさかペンギンの生息地では空から魚が降ってくるとまでは思っていないと思いますが、ペンギンは陸上で食事するものと信じ込んでいるんです。」

飼育管理上、陸上でペンギンに給餌を行う水族館側の都合も理解できますが、結果として間違った情報を広めてしまっているのであれば、それは水族館側の責任です。

中村
「一番の動物福祉、一番のエンリッチメントってなんだか分かる? それは動物を飼わないことや!」

水族館が命を閉じ込めて飼育展示することを許されているのは、水族館に「自然の本物の姿を見せて伝える」という社会的役割があるからであって、

中村
「嘘を教えるんだったら水族館でペンギンを飼う意味は全くないよね。」

動物福祉やエンリッチメントを考える上でも、命が輝いているかどうかの視点を持つことは非常に大事であると感じました。

 

動物福祉、エンリッチメントの話題はデリケートですが、中村さんはズバズバと斬り込みます。

 

そもそも生き物はどのような時に ”命が輝く” のでしょうか?

中村
「それは、その生き物が生きていくためにしなくちゃいけないこと一生懸命にをしている瞬間です。例えば、獲物を襲っている瞬間、敵から逃げている瞬間…。メッチャかっこいいやんけ! 人間だって同じよ。水族館プロデューサーとして独立して東京に出てきて、一番辛かった時に、一番苦しかった時に、一生懸命に頑張っていたオレって自分でも凄く輝いていたなぁと思うんです。必死やけどオレかっこええやん!って。新しい展示が完成してテレビのインタビューを受けていたりすると、知り合いから『元さん、最近輝いているね!』なんてメールが来たりするんやけど、それは輝いた後のオマケやご褒美なんやって(笑)」

テリー
「なるほど。僕らは水族館で生き物の本当の姿を見ていないし、触れてさえいなんですね。」

中村
「だからそういったことを見せられるように、これからの水族館は考えていなくちゃあかんなと思っているわけです。」

昨年夏の超水族館ナイト(vol.44)で、ゲストの本田公夫さんが語られていたことですが、日本の動物園の飼育スタッフは農学(畜産学)系の出身者が多く、どうしても野生生物への理解が乏しい一面があるそうです。一方で、日本の水族館のスタッフは自然を相手にした水産学系の出身者が多く、野生生物を扱う上での素養が備わっているとのこと。

中村
「だから日本の水族館は命を輝かせることがもっとできるとオレは思っているのね。でも、それは誰かが教えてくれるものではないんです。学芸員コースを履修したらと言って分かるものでもない。水族館の飼育スタッフが自分で見つけていかなくちゃ!」

 

2024/02/24